
どうも、『秘密結社リクすきおじさんの会』※会員番号14142805番お市です。(※実在する組織とは一切関係ございません)
アルゼンチンで行われるU-20W杯の日本代表メンバーが発表されました。
燦然と輝く山根陸(横浜F・マリノス)の文字!まあ知ってたけどね!
(前日のリーグ戦で負傷したって聞いたから正直ヒヤヒヤでした)
SBでの起用も増え、もはやマリノスサポーター以外のサッカーファンでもその名が知れてきた山根陸(以下、リク)ですが、世代別代表の相方松木やマリノスのアタッカー陣と比べると、上手さがわかりにくい選手なんじゃないかと思います。
そこで今回はリクすきおじさんとしてリクのここがすきだと叫びたいと思います。やけにしつこい家系ラーメンのような文章ですが、お付き合いください。
それでは山根陸紹介文はっじまーるよー。
目次
ここすき①:騙して作る、つながりとリズム
Embed from Getty Imagesリクの主な仕事場は中盤の深い位置。U-20では主にボランチとして中盤の低い位置からゲームを動かす司令塔の役割を担っている。なので味方からのパスも相手からのタックルも360°全方位からやってくる。そんな時こそリクの”上手さ”が炸裂する。
速いメッセージつきのパスがくればそれを読み取ってターンするし、もらったパスが苦し紛れでも細かくボールに触りつつ悠然と相手をいなす。自身でボールを持つのが難しかったとしても相手を引き出してからワンタッチで味方に繋げる。
「ボールをもらい、相手に取られることなく次の一手につなげる」
文字で書くと実に簡単そうに見えるが、実際は難度が高く、何より自信を問われるプレーだ。ボールを奪われてそのままカウンターになれば、たちまち戦犯になりかねない。プレスの激しいチーム相手ならなおさら、「こっちにボールが来ませんように」と思ってしまうこともある。
だが、リクは臆せずパスを呼び、その先につなぐ。それは決して彼が身の程知らずな自信家だからではない。ボールを扱う基礎技術の高さ、ひいては相手を騙すスキルがあるからだ。
パスを受ける前のちょっとしたステップ、細やかなタッチも相手に次の動きを誤解させ、「今ならボールが奪える」とか「今は奪えそうにもない」と”騙す”。
まんまと騙された相手がボールを奪いに突っ込んできても、奪えそうにないからと足を止めてもリクの思惑通り。
相手がどんなにフィジカルで勝る選手だったとしても、動きがこちらの想定内なら回避も容易く、傍目にはさらりとかわして見せているように映る。
こうした”騙す”スキルによるボールキープにこそ、リクがパスを引き取り続け、つなぎ続けて、パス回しの要衝として周囲の信頼を勝ち得た理由がある。
ただ、リクはスキルだけで出場機会をつかみ取ったわけではない。
どんなに優雅に相手をかわしても、その先のプレーが平凡なら意味がなく、華麗なテクニックを見せるものの試合結果になんの影響も及ぼさない…という選手では、フィギュアスケートのような芸術点の概念がないサッカーという競技では重用されない。
リクが非凡たりえるのは、こうした見映えだけの技術に終わらない実効性の高さにもある。相手と味方の立ち位置やら受けたパスに込められたメッセージなどすべてをインプットにして、スコア(得点や失点回避)につながるアウトプットを出す。この点においてリクはとても優れている。
例えばこの得点シーンの0:03~0:04あたり。
畠中から速い縦パスを受け取る前、リクは初心者のバック車庫入れよろしく後方を入念に確認している。
相手の寄せは鋭くなかったので、パスを受ける前には足元で止めて自前の流麗なターンも選択肢にあっただろう。
けれど来たパスは速めで、かつ斜め前には水沼がいた。
そのためリクはよりタイムロスなく前に進めるワンタッチでのパスを選択。パスを出す時に至ってもずっと自陣ゴールを向いたままなので、相手からするとこのタイミングで前方向(水沼のいる方向)には通らないと思ったはず。
パスの出し手の畠中からのメッセージを無碍にせず、文字通り攻めのスイッチを入れたシーンだった。
リクはど派手なシュートを叩き込むわけでも、相手を力技でねじ伏せたり、圧倒的な脚の速さで相手を置き去りにしたりするわけでもないため、良さは傍目からは確認しづらい。
けれどリクは丹念に相手を騙しながらボールを保持し、味方からのパスをつなぐハブとなり続けつつも要所でリズムを変えていく。ゴールが決まった時、攻撃がうまくいっていると感じている時、いったん映像を止めて巻き戻してみると、どこかでリクが関わっている。そうした「試合の流れを変えたり、チームのリズムを変えたり」するプレーをリク自身も好んでいるらしい。
「攻撃のところでリズムを変えられたり、拮抗したなかでアクセントを入れられたり、その瞬間が自分の価値というか、”いる意味”を出せる瞬間だと思っています。本来はMFとして、アシストとかが一番”これだ”って言うべきものなのかもしれないですけど、自分はその感覚よりも、試合の流れを変えたり、チームのリズムを変えたりのほうに快感があります。そこはユースの時からプロになっても変わらず、自分のなかで好きなプレーですね」
スポルティーバ『横浜F・マリノスから世界をうかがう山根陸。「アシストより「チームのリズムを変えるのに快感がある」』
相手も味方も操り、攻撃のリズムを変え、試合の流れも掌握する。いい時のリクのその姿は、まさしくゲームの中心でタクトを振るう指揮者のようだ。
はあ、リクすき。
ここすき②:経験を余すとこなく糧にする成長力
Embed from Getty Images非凡な才覚を1年目から見せていたリクではあったが、それでも課題点は多い。
フィジカルやスピードといった身体能力の面ではほかの選手と比べると正直まだ頼りないし、プレーエリアが相手ゴールから遠くチームの攻撃に厚みをもたらせない時もある。
リクもそのことを自覚しているようで、課題視するコメントをよく残している。
「できなかったというよりは、足りないな、と感じたところはあります。フィジカル的なところもそうですけど、守備の(ボールを)奪う力とか、あとは運動量ですね。攻撃のところのビルドアップに関わる運動量は慣れてきました。でも、守備のところで疲れてしまい、もう一歩が遅れて、”1秒早くそのポジションについていれば……”というのは何回かあったので。そこから展開されてしまったこともあったし、細かいところだと思うんですけど、それが大きな違いになってしまうので、そこは頭に入れてやっていかないと」
スポルティーバ『王者横浜F・マリノスのブレイク候補、山根陸。「武器がない」からこそ「総合力を高めたい」』
これもサッカー界ではよくある話だが、テクニックも賢さも兼備しサポーターを虜にしておきながら消えていった選手は少なくない。いわゆる「消えた天才」といわれる選手の多くがそのタイプだ。そういった選手の多くは、「守備ができない」「点に絡む仕事ができず物足りない」といった評価を下されて出場機会を失っていく。
ただ、リクに限ってはそのパターンに陥ることはないのではないだろうか。もちろんサポーターとしての贔屓目が強いのは認めざるを得ないが、そこを抜きにしても彼のこれまでのキャリアを見ていると、あまり「浪漫」で終わりそうには思えない。ひとつの経験から経験値を最大限引き出し、自己の成長に変える能力が高いからだ。
象徴的な出来事が、今季のサイドバック(SB)での起用だった。
もちろんマリノスのSBにはボランチの時同様にゲームを操る慣れ親しんだ仕事ができる余地があるが、それでも相手ゴール付近から自陣ゴール前まで上下動は求められる上にスピードのある相手WGを抑えたりする必要がある。
お世辞にもスピードや守備対応が売りとはいえないリクにとっては、不向きな仕事にも思えた。
事実今季SBとして出場した際に対峙してきたのは、リーグでも名うての韋駄天たち。後手を踏むシーンもあったし神戸戦は汰木に完敗を喫した。
ただその後迎えた鳥栖戦、同じくリーグ屈指のスプリンター岩崎を前にしてリクは奮戦した。
かけっこ勝負になる機会は極力減らすように、極力岩崎との距離は離さず対応し、何度かではあるがトップスピードに入られないよう遅らせることに成功。汰木にやられたような駆け引きでの敗北は見当たらなかった。
スローインの後を潰しきれなかったため前半アシストを献上したものの、それでもリーグ戦でのSB起用4戦目としては上出来と言っていい仕事ぶりだった。
「自分の課題点を説明できる程度まで理解する」「うまくいかなかった経験を反省し成長に繋げる」
文字にするのは簡単で当たり前なことを言っているようだが、実践するのはあまりに難しい。
だがそうした決して簡単じゃない”当たり前”を重ねて、リクは成長し続けている。自身が出た試合の経験を余すとこなく吸収し、次の試合で学習した結果を見せつける。リーグ戦はおろか代表活動を経たあともひと回り大きくなって帰ってくる彼の成長曲線において、このU-20W杯は大きなターニングポイントになるはずだ。
そういうとこ、ほんとリクすき。
ここすき③:いつでもどこでも”山根陸”ができるメンタリティ
Embed from Getty Images(ちょっとエモ多めです。苦手な方はここで止めてください。)
筆者が初めてリクを見たのは彼が高校1年生のころ。まだまだ寒さ厳しい荒川土手だった。
練習試合というのもあってか、当時昇格したての1年生ながらリクは4-2-3-1のボランチとして30分弱プレー。今よりもより線の細い体躯ではあったが、ボールの扱い方が突出して上手く、パスで味方同士をつなぐハブ役としていわゆる気の利くプレーを続けていた。クォリティは違えど今トップチームで見せている仕事ぶりと大きな差はなく、「こうやってテクニックを活かしてパスを繋ぐのが山根くんのスタイルなんだな」と1試合で認知したのを覚えている。
「中学年代でも世代別代表に選ばれていたし、山根くんはゆくゆくはマリノスユースでレギュラーかな」
そんな風に期待を込めて見ていたが、スターティングメンバーはおろか、ベンチにすら「山根陸」の3文字がない時期があった。
現在法政大の主将を務める吉尾虹樹や栃木で武者修行中の植田啓太など、偉大な司令塔の先輩たちがいるからなかなかメンバー入りできないのかと思っていたが、ある日の試合で別の理由があることに気づく。試合に向かうメンバーをよそにリクは松葉杖をつきながらその様子を白線の外で窺っていた。本来であればその名前を広く世に知らしめただろう高校時代、その大事な時期をリクは怪我で失っていた。
世代別代表からも遠ざかり、ユースの試合も毎試合出ているわけでもない状況ではあったが、リクが高校3年の夏のこと。東京五輪による中断期間に行ったトップチームの宮崎キャンプの練習試合ヴェロスクロノス都農戦、画面越しに彼の姿が見えた。
高校1年の頃、荒川の土手で見せていたようなパスを引き取りながらテンポを作っていくプレーを、リクは宮崎の地でも見せていた。
だがその時の相手は自分よりも歳上の選手たち、そして周りは慣れ親しんだユースの仲間とは異なるマリノスのトップチームメンバーと、「いつも通り」ではない顔ぶれだった。
しかもこの試合はチームにとっては数ある練習試合のひとつでも、リクにとっては進路をかけた大一番だった。その年の夏には翌年の編成を考えると言われるJリーグクラブ、トップチームへの昇格を狙うユース3年生にとっては夏までにどこまでアピールできるかがポイントと言っていい。その点を踏まえてみると、この練習試合はリクにとってトップ昇格に向けた最終試験だったのかもしれない。
メンバーの違い、かかるプレッシャーの違い。こうした「いつも通り」ではない状況で、リクは「いつも通り」のリクらしいプレーを見せた。第一志望の大学入試を日頃の試験勉強みたいに解くかのごとく、冷静かつ確実なプレーぶりはトップチームの編成部もうならせたに違いない。その3ヶ月後、リクはトップチームへの昇格を果たす。
ただ、それまでのマリノスユースからの昇格選手は、なかなかトップチームで出場機会を得られていなかった。
大きな要因としては、マリノスのトップチームの求める水準が年々加速度的に上がったことが挙げられる。前任のアンジェ・ポステコグルー監督はときに若手の抜擢も進めたが、それはあくまで監督の求める仕事ができる選手のみ。シビアな評価基準のもと、別チームへの武者修行へ出る選手が多かった。
そんな数年があったので、リクもなかなか試合に出られないではないかと思っていた矢先のこと。マリノスは2022シーズン開幕早々にボランチの人手不足に陥る。山口蛍と扇原貴宏という歴戦の中盤コンビを擁する神戸相手のメンバーとして白羽の矢が立ったのが藤田譲瑠チマ、そして山根陸の若い2人だった。
ちなみにこの時の筆者はのんびり仕事を片付けてから試合に行こうとしていたが、スターティングメンバーを見て驚愕。居ても立っても居られずリクのユニフォームを片手に家を飛び出した。いつものようにマリノスを応援する気持ちよりも「リクは大丈夫だろうか、ミスせずにゲームを終えられるだろうか」といった心配の方が先立っていた。
だがこの心配はまさしく杞憂だった。終わってみればリクはマリノスサポーターどころか共にプレーした選手たちでさえ感嘆するほどの堂々としたパフォーマンスを披露してみせた。
その時もまた、リクは宮崎や荒川の土手でみせた山根陸らしい、パスを繋ぎテンポを作るプレーをしていた。またしても、「いつも通り」ではない舞台で「いつも通り」をみせたのだ。
そこからというもの、リクは常に山根陸をやり続けている。着ているユニフォームがトリコロールでもサムライブルーでも、立っているピッチがリーグ戦の日産スタジアムだろうと代表戦の海外のスタジアムだろうと変わらない。調子の良し悪しもなく、常にゲームのタクトを振るい続けている。
ああ、ほんとにもうリクすき。
おわりに
いよいよやってきたU-20W杯という大舞台。リクを重用してきたケヴィン・マスカット監督は「重要になる戦い」と称したが、国を代表するというのはもちろん、ヨーロッパのスカウトも注目するだろうこの大会での仕事ぶりは、リクの今後のキャリアも大きく左右すると考えてのコメントだろう。「いいプレーをしなきゃ」と思ったところで無理のない状況だ。
それでも、リクはきっと「いつも通り」山根陸らしいプレーを見せるだろう。
トラップひとつパスひとつに仕込んだ繊細な技術で相手を騙しつつ味方同士をつなぎ、磨いてきた運動量を活かしながら日本代表の攻撃を指揮するはずだ。
マリサポが愛する横浜の俊英から、国中のサッカーファンが釘付けになるサムライブルーのマエストロへ。キャリア最大の舞台をぜひ「いつも通り」楽しみ抜いてほしい。
<この項・了>