目次
注意
青森山田高校より「特定の選手の名前や写真を許可なく投稿しないこと」とあったので、当記事には同校の選手名は記載しておりません。悪意はないのであしからず。
はじめに
ということでマリノスユースを追い続けてやってきました、青森県。

クラ選の前橋といい、今回の青森といい、行くとこまで行ってしまったなとしみじみ思います。
前日最終便で青森に着いて、明けて翌日の朝ごはんはホテル近くのカフェで。レトロな雰囲気と深煎りの心地良い苦味がたまりません。
諸々ありましたがなんだかんだ試合開始直前に会場着。どうでもいいんですが、育成ヲタやってると母校でもない学校のグラウンドに足を踏み入れがち。これをサッカー界隈外の友人に話すと「お前そのうち捕まるんじゃないの…?」と言われますがそれでも僕は元気です。
リーグが終わったのか王者ことマリサポの数もちらほら。いつもお会いするユース893の皆様も含めると20名くらいでしょうか。ただそれを上回る数をずらりと揃えたのが青森山田応援団。ご親族や同級生も含めるとだいたいこちらの4,5倍はいたのでは。。肌を刺すようなアウェイ感がたまりませんでした。
さてさて、試合の話をする前に両軍の状態をおさらいしましょう。
直近5試合16失点と単純計算で4点取らないと勝てないチームとなってしまったマリノスユース。プレミアEAST優勝の可能性も風前の灯。そして対するは2016年10月1日以降勝ったことがない天敵青森山田。(ちなみに当時のマリノスユースの10番は吉尾海夏)今年6月のゲームでは0-2で敗れている相手です。
対する青森山田、高校年代3冠を達成した昨季に比べ、今季はインターハイ2回戦敗退でリーグ戦は5位と苦しい戦いが続きます。それでも先日行われた全国高校サッカー選手権青森県予選では接戦をモノにするなど、確かな地力を証明しています。
圧倒的な逆境の中、若きトリコロールたちが見せたものとは。山田戦簡易マッチレビュー、はっじまーるよー。
前半
マリノスユースのメンバーはこちら。

今季中軸としてプレーするCB畑野くん、LSB池田くん(どちらも2年)がU-17代表のクロアチア遠征、先月のJFAアカデミー福島戦で2ゴールを記録したCFエルシャターブブライト海くん(1年)がU-15代表のスペイン遠征で離脱中。LWG松村くん(3年)がメンバー外と厳しい台所事情。終盤戦らしくまた育成年代らしい「最高火力のメンバーを起用できない」状況で総力戦の悲哀も感じるところだが、終わってみればこのメンバーが実に青森山田の攻略法にマッチしていた。
開始15分ほどはほぼ青森山田ペース。
前半キックオフ前にマリノスユースDFにとって日差しが眩しくハイボールをクリアしにくい方にサイドを変更し、キックオフと同時に6人(2トップ+2SH+2SB)が敵陣に突っ込みそこへロングボールが入るなどの徹底ぶり。(なお、この方法はリバプールもよくやる。ハイプレス+ショートカウンターをやるためにボールと味方を一気に相手陣地にねじ込む常套手段。)

その後青森山田がとった戦法は見慣れた4-4-2ブロックによる押し込みだが、やっぱり手強い。
配信の俯瞰の映像だとガタイの差とか力づくでねじ伏せてるのかと思っていたが、間近で見ると少々話が違った。青森山田の選手は総じて身体の入れ方やバウンドするボールの跳ねる先の予測が長けているようだった。それでいて3種(中学年代)ではボールの扱いの巧さで頭抜けていた選手が多いので・・・
ロングボール
↓
おしくらまんじゅうでボール奪取
↓
囲まれる
↓
それでもワンツーや個人技で剥がされる
という形が発生する。このパターンにハマりマリノスユースはなかなかボールを思うように持てなかった。
ボールを前に運ぶ手段もCF9番内野くんに向かってロングボールを当てるのが関の山という時間もあり、苦しい立ち上がりだったことは確かだ。前回現地観戦した前橋育英戦も同じ兆候が見られ、「これはロングボールのこぼれ球 or 無理めな縦パスを狙われてカウンターを受けまくるのでは、、」と筆者は正直内心ヒヤヒヤしていた。
ただ、このゲームのマリノスユースにはこのブロックを壊すための手段が2つあった。
1つは白須くん、飯村くんのWGコンビの縦突破。どちらも早い段階で大外タッチライン際に張って相手SBとの1対1を頻繁に仕掛けていたため、まずこれで青森山田の4-4-2がやや横に広がり扁平に。
もう1つはLSBに入った右利きの舩木くんのポジショニング。いわゆる”偽SB”のようにハーフレーンに入り数的優位を作り、相手ボランチコンビのマークを迷わせることに成功。
WGコンビで幅を広げたことも相まってCB→ボランチor舩木くんのパスが通りやすくなり、本来なら4-4-2で守りたかったはずの中央を何度か突破してみせた。前半20分あたりから青森山田側からマークの確認を行う声かけが増え始めたのも偶然じゃないはず。

白須くんは小柄ながら夏のクラブユース選手権(クラ選)で単独突破できるドリブラーだと知っていたが、飯村くんはまた別タイプのサイドアタッカーで驚いた。細長い脚のストライドで一気に相手を置き去りにできるスピードもさることながら、ヘソの向きを変えずにアウトサイドでボールを止めるなどボールタッチもしなやか。中学時代にブリンカールFCでフットサル全国優勝メンバーになっているだけある。
LSB舩木くんは普段はRSBの選手。持ち前のスピードでタッチライン際を駆け上がるいわゆる”香車型”のSBのプレーが多かったが、この試合ではクレバーな立ち位置で相手のマークのズレを生み出すなど違った一面を見せた。今回クロアチア遠征に呼ばれたプライマリー時代からの同級生LSB池田くんとぜひ世代別代表の常連になって欲しい。
また、時間の経過とともに舩木くんのポジショニングも手伝ってフリーでボールを受ける回数が増えたボランチコンビ篠原くん、細川くんのコンビも秀逸だった。負傷から復帰した篠原くんはDFライン前でボールを落ち着ける役割をしつつ、サイドへの飛び出しや潰しも行いレジスタとして機能。細川くんのボールタッチはマリサポサイドだけでなく青森山田応援席も息を呑むほどで、半径の小さいターンでタイムロスなくパスを回し続けた。
このようにWGによるサイド攻略と逆足SBのボランチ化を使ったマリノスユースではあったが、最後相手ゴール前ではサイドからのクロスがほとんどで、青森山田DF陣に跳ね返され決定的なシーンは作れず。ボランチに上手くパスを通すことは出来ていたが、青森山田のDFラインまで釣り出すには至らなかったり、前4枚(CF, OMF, 両WG)のうち3枚以下しかゴール前に間に合っていなかったりと前の人数不足が否めなかった。
他方青森山田はボールこそマリノスユースに握られているものの効率よくロングボールを使いつつ、セットプレーを中心に何度かマリノスユースゴールに迫った。など、0-0ではあるもののお互いが喉元にナイフを突きつけ睨み合うようなヒリヒリした内容で前半は終了した。(ピッチ内とは裏腹に観てる我々の横ではとんぼが飛んだりめっちゃのどかだった。あと日差し暖かすぎてワークマンのインナーむしろ暑かった。)
後半
フィニッシュパターンに悩むマリノスユース。手始めにビルドアップの人の割き方を変えてきた。

後半の入り、青森山田はマリノスユースCBにまでプレスをかけるよりブロックを維持する方を選んだ。押し込まれた後にDFたちが自陣ゴール前に戻るまでの距離を短くするためだろう。ハイプレス→ショートカウンターよりも、前半ある程度決定機に繋がったロングボールからのカウンターを選択したとも言える。
それに対してマリノスユースは初めにGK福井くんが高い位置に出てビルドアップに参加。押し出されたCB髙橋謙くんがサイドに開き、さらにRSB三橋くんが内側に入る…と、ところてん方式で立ち位置を変えた。こうすることで左右のサイドに3+1の四角形が出来上がることになり、配球役になる1人(CB)のパスを受けてWG, SB, CMF(またはOMF)がポジションチェンジを繰り返して相手のマークを外しやすくなった。
ただこうした気軽にチェス駒でも動かすかのような配置の話も上手くいかなければ机上の空論になってしまう。だがこの日のマリノスユースには戦術という枠組みを下支えする”基盤”と枠に注ぐ中身である”武器”があった。
”基盤”となったのが、CBコンビとCF内野くんの苦しい時間帯での奮闘だった。
石井くん髙橋謙くんのCBコンビは青森山田のロングボール(特にリスタート時に早く正確なボールを蹴られることが多かった)を跳ね返しつつ、競り合いに参加していない方のCBは相方の周囲でこぼれ球を拾える立ち位置をとるなどカバーリングも欠かさなかった。純粋なフィジカルだけでなく落下地点予測や「次何が起きるか」を読む力に長けた3年生CBコンビをここで起用できたのは大きかった。
リーグ戦得点王ランキング1位のCF内野くんは、今回はシュート0本に終わったものの、常にボールの預け先であり続けた。青森山田のDFラインの裏をつくランニングでパスを引き出したり、ロングキックがきたら後ろ向きのボールめっちゃトラップして時間を作ったりと、数字に残らないものの重要な仕事をこなし続けた。しかも青森山田のCB2人を引きつけることも成功していたので、OMF望月くんら2列目の選手がフリーになる機会も作っていたのは大きかった。
いわゆる「自分達の時間」じゃない時に、センターラインを締める彼ら3年生が粛々と仕事を務め上げ、先に失点して崩れず保った”基盤”があればこそ、戦術も使えたのだろう。
また戦術はあくまで枠でしかなく、結果につなげる”武器”があればこそ。今回の試合ではLWG白須くんやRWG飯村くんの単独突破、そしてOMF望月くんのシュートの上手さといった、1,2年生アタッカーたちの”武器”がゴールをこじ開ける最後のカギになった。
1点目は左サイドでマークが剥がれフリーになったLWG白須くんのカットインがキッカケだったし、2点目は右サイドの3+1の組み合わせから抜け出してGKと1対1になったRWG望月くん(後半31分、飯村くんに替わって入った上西くんがOMFに入ったため)のニアサイドを射抜くシュートが決定打だった。
抽象的な言い方だが彼ら1,2年生は、日に日に自信を増しているようだった。国体の神奈川県選抜としてのプレーや、クラブユース選手権をはじめとするマリノスユースAチームでの活動で得た経験からか、ためらいなく自分の持っているものを見せつけていた。持っている武器もキャラクターも1人1人異なるので今後も楽しみだ。
3年生センターラインで作った土台で、1,2年生が各々の長所を振るうことで、ピッチ内の課題をスムーズに解決していく。実に約6年1ヶ月ぶりとなる青森山田攻略は、理想的な形で完遂された。
総括
終わってみれば2-0の完勝劇だったが、両チームは様々な課題を突きつけ合った好ゲームだった。その中でマリノスユースはここ最近のネックだった「苦し紛れの縦パスをかっさらわれてカウンターから失点」「ロングスロー含むセットプレーからの失点」の2つを(例年通り)青森山田に狙われていた。それでも決して安易にロングボールだけの攻撃に逃げたりせず、あくまで相手を動かすための方策を探り続け、最後に点を奪っての勝ったこのゲームは勝ち点3以上の重みがある。
また現地観戦ならではだが、選手たちの声がよく聞こえたのも良かった。
最後脚がつってしまった篠原くん、細川くんの3年生ボランチコンビはいずれも下がる時まで指示を飛ばし、ピッチに残った面々に「頼むぞ」と声をかけていった。返す返すこの試合は引き分け以下ならプレミアリーグEAST優勝の可能性消滅(試合後川崎U-18が勝ったため2位以下が確定してしまったが)という危機があったし、6年勝てていなかった青森山田への雪辱という熱を煽る要素もあっただろう。それらがひしひしと伝わるエモーショナルな場面もあり、観ていたマリサポにとっても大満足のゲームだったのではなかろうか。
残念ながらプレミアリーグFINALに進出できないため、2022マリノスユースのリーグ戦はあと2試合。次節は優勝を決めた川崎U-18が相手となる。次にリベンジの立役者になるのは誰か、期待して見届けたい…って無観客試合かい!!!
<この項・了>