【涙ぢゃあなく】2022J1リーグ第24節川崎戦の雑記【勇気と共にあれ】

はじめに

いやあ、負けましたね、神奈川ダービー。

劇的弾で勝ち点を拾ってきたマリノスですが、逆の立場を久々に味わいましたね。目の前で見せつけられるとこんなに辛いんだなと実感する機会となりました。
正直サポとして、ダービーマッチでの敗北は感情的に堪えるものがあります。けれど、我らが監督ケヴィンは意外な言葉でこのゲームを評しました。

今季、ベストの内容ではないかというくらい、自分たちのサッカーが出た試合でした。選手たちは素晴らしいパフォーマンスをピッチ上で表現してくれましたし、選手たちを誇りに思います。内容が伴って勝利につながれば一番良かったですが、アウェイで支配したサッカーを見せられたと感じています。

Jリーグ公式試合後コメント

スタッツ上ではにわかに信じがたい言葉です。ボール支配率もさることながら、枠内シュート数も川崎が5本なのに対しマリノスは3本と下回っています。

それでもこのゲームを「今季ベスト」と評したのは、ケヴィンが多かれ少なかれ手応えを覚えたポイントがあるからでは?とも推察できます。

その手応えのもとを考える材料として、直近の戦績が挙げられます。このところのマリノスには連勝がありません。あれほど7月序盤まで手のつけられないチームだったというのに、直近5試合は1勝2分2敗で8得点9失点。試合後テルが「踏ん張りどころ」と評したようにこのまま勝ち星が遠のくかどうかの瀬戸際にいます。

また、人選もいつの間にか変更が増えているのも見逃せません。固定気味だったスタメンやベンチもメンバーが(代表の疲労や離脱を考慮したとはいえ)変わっています。

この2つの事実だけでも、なんかマリノス煮詰まっていじくり始めてんなと邪推ができそうです。

そこで今回はマッチレビューというよりは、川崎戦で起こった事例をサンプルにして、今のマリノスが何に直面して何を改善しようといるのか、という私なりの想像を書いていきます。

小狡い但し書きにはなりますが、あくまで私見であって、全ての解を網羅したものとは自認していません。ツッコミ等は大歓迎です。

それじゃ、はっじまーるよー。

2022マリノス対策(最新版):ミドルブロック+SBマンツーマンでマリノスを押し込める

直近5試合で勝てなかった相手たち、セレッソ、鳥栖、広島、そして今回の川崎とディテールに違いはあれど、「自陣ではなくマリノス陣内で過ごす時間を増やす」という大元の考え方に変わりはない。

そのためにはマリノスをいかに手詰まりにさせるか、が鍵になる。
前線だけ遮二無二ボールを奪いにマリノスのCBを深追いしたりすると、自分達の陣形が広がってしまう。基本は縦幅30m前後くらいになるよう、前線は深追いせずDFは高めのラインを維持する。これでピッチ真ん中にボールを通さないブロックという名の砦が築かれる。

とはいえ砦を建築したところで中に閉じ込めたマリノスの選手を野放しにはできない。特にWGとトップ下は厄介だ。
狭いスペースでもうっかりパスが通ってしまうとエウは隙間をドリブルでもパスでも射抜くし、キレが日に日に上がっていくテルも細かいターンで相手を剥がして細かなズレを致命傷にしてやろうとしている。たくまやクリリンも隙間があればシュートやラストパスに繋げてくる。なので彼らWG,トップ下には高確率でマンツーマンでマークがつく。

もっとも、この程度の対策なら今までもやられてきたし、大抵途中で破綻してくれた。
けれど直近のゲームは同じメソッドでも実施する選手の質が高かった。具体的に言うと、相手のWGやFWが上手くパスコースをサイドの大外、または中盤のボランチが監視している箇所のみに限定してきていた。これによりマリノスのWG、トップ下のマークを担当するSB、ボランチは前(マリノスのゴール方向)を向いた状態で迷いなく「ここにボールが来る」と決め打ちした状態で対処できる。他の選択肢はWGやFWが切ってくれるので、SBやボランチからすれば「目の前のこの選手にパスが出たら潰せばいい」とそこだけ集中でき、満を辞して潰しに行けるというわけだ。

上の図は、今回の川崎戦で見られたサンプルケース。後半6分すぎにチョン・ソンリョンからのロングキックを回収したマリノスが岩ちゃん、エドゥのCBコンビでパスを回し、エドゥが降りてきたエウに縦パスを入れたシーンだ。この時2つの選択肢が消されていた。1つは大外に開いたLSBのかっちゃんへのコース。こちらに出すとパスカットできる位置に家長が立っていたためこれは難しい。もう1つは喜田名人(木村主審の異変を察知し無理をさせなかった今回の一件を加味すると喜田聖人でもいい気がする)へのコース。こちらはわかりやすく脇坂に捕まっているため無し。そうなるとボールキープに長けたエウへ預ける(またはワンタッチでかっちゃんへ叩くことを期待?)のが選択肢として残るが、ここはちょうど山根がマンツーマンでついていた場所なので、エウでもキープは難しく奪われてしまった。

このケースの山根のようにマーク担当者はボールをノーファウルで奪うことができる、いわゆる「人に強い」選手が多かった。セレッソだとSBに松田陸、ボランチに奧埜。鳥栖だとSBに原田、ボランチに福田。広島だとSBはいないがCBの塩谷、ボランチに野津田。そして川崎はシミッチと山根がそれぞれ担当者である。
以下はSofaScoreでのボランチ、RSBのスタッツだ。Ground duels (won)は1対1の回数で()内はそのうち勝利した回数。いずれも高い勝率を挙げていることがわかる。(ルヴァン準々決勝1stレグ広島戦はカップ戦だからか数値がなかった)思い返してみれば、どのゲームも彼らがやたらと輝いていたようにも思える。ちくせう。

とはいえこのブロック砦もボールを横へ横へと回されるたびに細かく移動しなければならない。なので必然的に中盤もサイドも運動量は増える。鳥栖戦の後、WGとして動いていた岩崎は、マリノスあるある偽SB(SBが中央まで動くアレ)にもついていきながら中央の選択肢を減らしに行ったことを語っていた。

ボールが逆サイドにあるときは自分も絞って、(偽SB化する)小池(龍太)選手をつぶしにいくようなシーンが何度かあったと思いますが、横の運動量というのはこのシステムではかなり意識していました。

鳥栖戦後Jリーグ公式選手コメント

破綻しないブロックの砦と選択肢を排除するマンツーマンの併用。運動量が落ちがちな夏場でも上位陣の選手たちなら実現可能なこの守備こそ、マリノスの自滅を多く招いてきた。
マリノスもこれまで数え切れないほどの「マリノス対策」を上回り続けて強くなってきた。だが他チームも「マリノス対策」を次々とアップデートしている。アップデートされまくりだからたぶんファイル名とかつけたら末尾に「_最新版_xx確認済_ver4(確定)」とかついてる。

マリノスがやろうとしていること:速さを際立たせる緩さと繊細さ

対策されたからと言って、砦を築かれたからと言って、指をくわえて殴られるのを待つようではJ1首位は務まらない。度重なるブロックとマンツーマンによる自陣暮らしを脱却すべく、マリノスはそれまでの自分たちの代名詞である「速さ」や、2019のCBコンビが記録したような「成功率の高いパス」とは逆の手を使ってきた。

上の図は1失点目の直後、センターラインからのリスタートのシーンから、GKようへがトップ下たくまにパスを刺したシーンまでの動きを無理やり1枚にしたもの。ここにマリノスが最新版のマリノス対策を超えようとしている跡が見られると筆者は考える。

まずは24:10ごろに右サイドでテルがスーパーマリオのごとく2段ジャンプくらいしながらLSB橘田とLWGマルシーニョをかわしてスタート。ここも一度奪われたら即カウンターの危険なシーンだったが、だからこそ橘田が高い位置まで引き出され、彼の穴を埋めるために一度IHチャナティップはサイド寄りに立たざるを得なくなった。テルの個人技頼りではあるが、これで右サイドに寄せることに成功。

次にCBコンビを経由して左に揺さぶったのち、上がってきたようへに預ける。縦幅の狭いブロックを堅持したい川崎としては、あまり不用意にようへに突っ込んで芋づる式に剥がされるのは避けたかったはず。かくしてマリノスの守備陣でも屈指のビルドアップセンスを誇る背番号1はフリーとなった。

そのようへが選択したのはトップ下への縦パスではあったが、パススピードはとても相手ブロックを切り割くようなものではなく、やや緩めだった。だが、その少し緩いパスは人ではなくスペースにつけられたもの。だからこそ、たくまは降りてシミッチより遠い位置でボールを受けられた。この後りゅーたへのワンタッチでの落としを皮切りに、マリノスはじわじわと川崎陣内へ前進していくこととなる。

このように、マリノスは左右と上下の揺さぶりを使いつつ、ブロックの隙間が空くのを誘発させる取り組みを何度か行った。文字だけで見ると「ブロック守備を前にして何を当たり前のことを」という感じではあるが、重要なのはこの左右の動きは、必ずしもフリーの選手の足元に速いボールをピタリと刺しているパスだけで構成されているわけではないこと。テルのキープもようへのパスも一歩間違えばミスになってカウンターの餌食になるかなりデリケートなパスだが、だからこそ相手が食いついてくれたし、揺さぶられながら穴を空けてくれた。速いパスをいくらブロックの外で回しても相手に放置されるだけだが、「もしかしてこれ奪える?」と思わせて相手を引き寄せたり、パスが出る瞬間は誰もいない場所に遅れて入って来させることで、相手の立ち位置をズラしていく。一見するとゆるかったり危なかったりするシーンで、ボールを失わずに繋ぎ続ける繊細な技術も今のマリノスは体得しようとしている。

このようにゆるく繊細なビルドアップで動かされると、相手のスタミナは削れていく。そこでこの速さでゴールまで迫れるアタッカー部隊が襲い掛かれば、その速さにはますますついて行きにくくなる。

今後の課題

徐々にブロックを組まれても相手陣内へ迫る手段を試しつつ、速さの顕示も忘れていないマリノス。次なる課題は、ブロックを超えて相手陣内へ迫ったあといかにゴールまで至るのかのルート設計だろうか。

残念ながら川崎戦での揺さぶりは単発的になってしまい、シュート本数が伸びるまでには至らなかった。CB・GKを中心としたビルドアップ部隊からのパスにより緩急や長短を織り交ぜさせ、揺さぶりを強化していくのか、それともサイドからの侵入でテルやエウのドリブルのようなアクセントを加えてみるのか、はたまた一度ボールロストしてでも相手陣内へ蹴り込んでプレスをかけてショートカウンターを鋭くしていくのか。アプローチは様々あるだろうが、確たるものはまだ掴めていない印象だ。

今の所、タメの作れる右の水沼・独力でアクセントをつけられるエウの同時起用(のちにテル宮市のスピードで畳み掛ける)でブロックを崩すという7月上旬までのやり方を超えられるものは見えてきていない。ここが固まらないことには、「後ろでボールを動かせるのはいいけど、結局どこのスペースをいつ空けて最後どの形に繋げるの?」という部分が曖昧なままで、チームとしてゴールまでの共通の絵が描きにくいままになってしまう。

新加入のヤン・マテウスを上手く利用するのか、それともまた別の策を講じるのか。ケヴィンの次なる一手がハマったとき、いよいよ手に負えないマリノスが出来上がっているかもしれない。

おわりに

相手の対策を優先して勝利する手段もある。サッカーに芸術点はないし、勝ったか負けたかシーズン終わりにどれだけ勝ち点を積んだかで人はチームの成否を語るだろう。それでも、マリノスは半ば意固地になって「スコアや順位は関係なく攻撃の回数を増やし何度でもゴールを狙う」という自分たちのポリシーに殉じた。もしかしたら、ケヴィンに「今季ベスト」と言わしめたのは、そんな不格好ながらも愚直な心意気の部分だったかもしれない。

マリノスというチームは、対策を講じられてバグを直すことを繰り返して強くなってきたチームである。
川崎戦までの5試合での苦渋も、デバッグ箇所の指摘だと思えば、今後チームが成長するための糧となるだろう。

だが一方で、今のチームはあとリーグ戦で10試合、カップ戦も合わせて最大20試合も戦うことなく解散する。出入りの激しいマリノスにおいて2023シーズンも全く同じメンバーで挑むことは考えにくい。
そんな事実に直面した時、サポの私にこみ上げるのは「このチーム、2022のマリノスにタイトルをとってもらって、語り継がれるチームになって欲しい」という思いだ。2019のチームもシャーレがあったからこそ未だ色褪せることなくマリサポに語られ続けている。鬼門カシマを超えたあの熱情を、代表に7選手を出した誇らしさを、そして宮市亮の不撓不屈を含んだ2022の章のエピローグには、「惜しかったシーズン」なんて言葉は似合わない。「強さを増してタイトルを取り戻した栄光のシーズン」と末筆に書き添えたいのだ。

であれば、こんなところでは終われない。いや、こんなところでくたばってたまるか。プライドと呼ぶにはいささか泥臭い「意地」を通し、マリノスは彩りを増したマリノスの色でタイトルを奪い、この道を正解にするほかない。

シーズンも中間地点を過ぎた今、リーグ戦はダービーで敗北、ルヴァンの準決勝進出は危うい状況。今年屈指の正念場だ。ただ、その正念場を超えれば、また1つ「マリノス対策」を上回った手応えが得られる。

この壁を超えた強さに手を伸ばす意地っ張りなトリコロールに、もう一丁祝福あれ。

<この項・了>

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