どうも、「茨城県民のバイト先の先輩にずっと逆らえなかった」お市です。弱みを握られていたとかじゃなく、シンプルに圧の強い人だったので毎回たじろいでました。
そんな私と先輩の関係性のように、マリノスも鹿島の怒涛のプレッシャーに負け続けて早や9年。いつからかカシマサッカースタジアムは我々マリサポにとって鬼門、トラウマの地となってしまいました。私もスタジアムが近付くにつれて、動物病院に連れていかれることを悟った子犬のごとく嫌な気分に襲われたものです。
そんな鬼門を克服し、マリノスはすっきりベトナムに旅立てるのか?序盤の分水嶺にもなる大勝負を振り返っていきたいと思います。
今年一発目のマッチレビュー、はっじまーるよー。
スタメン

好調の極みである鹿島は前節福岡戦とまったく同じメンバー。ジャケットに白カットソーと名将感溢れる出で立ちのレネ・ヴァイラー監督は、調子がいい時はメンバーをいじらないタイプなのかも。あるいは「今出し得る最大の火力で」マリノスとの打ち合いに臨んだきたか。
いずれにせよ、相手は9年ものお得意様とはいえ鹿島はスタイル構築中。試金石としてできる限りのベストメンバーで挑む。
対するマリノスも打ち合い仕様の11人が顔を揃える。さながら沈黙の水曜日となった広島戦からは8人変更。下げられた選手に三行半を突きつけた、というよりは、おそらく広島戦と鹿島戦をセットで考えてあらかじめメンバーを決めていたのではなかろうか。LSBには古巣対戦の永戸を配置し、中盤は前節うまくいかなかった▽(2IH+1アンカー)ではなく△(1トップ下+2ボランチ)のやりなれた方を採用。トップ下には「走るアドレナリン」「戦場に行くとなったら連れて行きたい選手No.1(私調べ)」の西村拓真を起用した。
前半
「岩田と小池龍どうしよう」問題からの「角田と永戸どうしよう」問題

広島戦でマンツーマンの餌食となったマリノスは、同じく前から圧をかけてくる鹿島に対して2段、3段構えのビルドアップを用意した。
1つ目が100試合を迎えた岩田(岩ちゃん)と小池龍太(りゅーた)が鍵となるサイドの三角形での回避。畠中(しんちゃん)がりゅーたにパスしたら鈴木UMAやカイキが潰しにくるので、隙間に顔を出した岩ちゃんにパス。このままりゅーたに戻してワンツーで叩いたりしながら鹿島の選手全体をマリノス側の右サイドに寄せる。そうすると左がじわじわと空いてくる。
などと、しれっと言っているが、岩ちゃんとりゅーたの仕事ぶりは出色の出来だった。
ボールを受けた後何をするかを事前に決めているもののそんな素振りがまったく見えない岩ちゃんと、走り回りながらパスコースを作り続けたりゅーたの2人でなければできないビルドアップだったはずだ。
事実この試合2人は、それぞれ岩ちゃんが74本、りゅーたが66本と両チーム合わせたパス成功本数トップ3にランクインしている。またパスマップ(下ツイートの画像2枚目)を見るとりゅーた、岩ちゃんコンビ間で多くパスを回していることもわかる。
「じゃあ岩田を潰せばいいのでは?」と思い立ったのが鈴木UMAもとい優磨。CBへのプレスは上田・頼むから早く海外に行ってくれ・綺世に任せ、すっかりパス回しのキーマンとなった岩ちゃんを監視し始める。余談だが現地で観ていると、こうした前線での守備はUMAが指差ししながら細かく指示を飛ばしていた。さながら鳶職の現場監督のようだったが、我々からも今の鹿島の中心は彼だとすぐわかった。
しかし岩ちゃんが使えないならと畠中しんちゃんは、空いている相方の角田りょうたろさんに渡す。もはや我々マリサポからは周知の事実だが、りょうたろさんはドリブル、左足からのパスとDF陣の中でも屈指のテクニシャンである。そんな彼としんちゃんを上田が1人で見なければならなくなったので、俄然りょうたろさんからの攻撃が増える。
岩田を見れば角田が空く、角田を気にすればまた岩田が空く。挙句思い出したかのように西村が顔を出す。幾度も選択肢を突きつけ続けたビルドアップは、今シーズンベストの出来だった。
またもう1人前半鹿島が捕まえにくかった選手がいる。LSBの永戸かっちゃんだ。
岩ちゃんルートから攻めている時は内側に入って右サイドからピッチを横切るようなパスを受け取り、りょうたろさんルートから攻めている時は大外に張ってそのままサイドを突破していた。パス回しの出口となるポジションを取り続けた結果、かっちゃんはこの日両軍合わせた最多のタッチ数120を記録した。シーズン序盤立ち位置迷子になっていた人とは思えない進化っぷりといえよう。
こうなってくると鹿島のプランは片手落ちになってしまう。なるべく高い位置でボールを奪い、上田・トラウマってレベルじゃねーぞ・綺世、UMAの強力2トップ、アラーノ、カイキのMF陣も含めたアタッカー陣で殴り続けるはずだったし、過去数試合もそうやって勝ってきた。
だが、ボールがなかなか奪えず2トップはかわされMF陣は戻って守備しなければならない。テルの相手をするRSB常本のヘルプをしなきゃいけないアラーノ、りゅーた&岩ちゃんのパス回しに巻き込まれるカイキはとりわけ消耗が激しかった。現場監督UMAも広く顔を出して攻守のキーマンとなり続けたため目に見えて疲れていた。この消耗が後の鍵となった。
では広島戦とはなんだったのか
Embed from Getty Imagesシーズンベストとも言える鹿島戦の攻撃を見ていると、「ボールってどうやったら前に進むんでしたっけ…」状態だった広島戦はなんだったのかとすら思う。角田や小池龍といったボールの扱いや立ち位置に優れた選手がいたか否かだけの違い、、と断定するにはいささか早計だろう。
広島戦は「静的な前進」を試みたが、鹿島戦では「動的な前進」を試みた点も見逃せない。

広島戦は上の図のように、4-1-4-1の構えからLSBの小池裕太(ゆーた)を張らせるなどした形以外はあまりポジションチェンジをしなかった。アンカーの喜田名人がCB間に降りてきたり、健さんが数回ボランチの位置からスルーパスを出したりしたものの、それらはすべて偶発的だった。
あまり組んだことのないメンバー同士で意図が合わなかったのもあるだろうが、お互いのポジションを交換するような動きは少なかった。
そのため広島の選手としては特定の誰かについていくマンマークディフェンス(というか一人一殺の構えみたいな圧の強さだったけど)をしても、ついて行き過ぎた末にとんでもない位置まで引きずり出された!というような不安がないため安心して目の前の選手に喰らいつけた。
だが、この静的な前進にもメリットはある。1枚かわせた時に労せずしてまた1人ずつ釣り出せるのだ。一人一殺の構えでやってきた刺客を返り討ちにしたら、伏兵が湧いて出て来るものの、サッカーは時代劇の殺陣ではないので全員を1人で相手にする必要はない。他の選手のマークを担当していた相手が離れれば、フリーになった選手に出す。それを見てまた1人相手が釣れたら別のフリーになった味方に…と芋づる式で突破できる。
しかも、鹿島戦の岩ちゃん&りゅーたのようにパスアンドゴーを多用しないため、いざ途中でボールを奪われても定位置を留守にしている選手が少ない。実現できればより安全な前進方法だったと言えよう。
ではなぜこうしたメリットを享受できなかったか。MFの山根陸(リク)は次のように答えた。
「約束ごとがあった中で、その型にはまりすぎると相手の型にはまってしまって良くない。声を掛け合って自分がサイドに流れたり(小池)裕太君が中に入ったり。質さえ良ければはがせるシーンもあった」
スポーツ報知『広島戦で今季2度目の黒星…横浜FM山根陸「ああいう中でどう違いを見せていくか」』https://hochi.news/articles/20220407-OHT1T51014.html?page=1
(リク、実は人生3周目とかだったりしないか)
彼が口にした「質」とは、1つ1つのプレーをより高解像度でやらなければいけなかったという意味だと捉えている。例えばパス1本でも強く出してターンを促すパスができたか?とか、トラップ1つでもぴたりと止めて相手の出足を牽制できたか?とか。いわゆる「止める・蹴る」の基礎技術を、この動き抑えめの前進方法では問われたのだろう。
いつの間にやら広島戦のレビューになってしまっているので、鹿島戦に話を戻す。
この広島戦での試みは、無駄ではなかったと思う。むしろ、鹿島戦で動きの多い前進をチームとして選択し、鹿島の守備を狂わせたきっかけになった可能性すらある。
特にビルドアップのキーマンだったりゅーたや岩ちゃんは、ずっと同じ位置に止まってボールを受けようとはしなかった。ボールを持った選手を囲む相手選手同士に、わずかな隙間ができたタイミングで定位置を外れて顔を出していた。彼らを筆頭に選手たちには、広島戦の静的な前進とその結果が頭にあったかもしれない。
Embed from Getty Images後半
ガス欠、味変、ゴールラッシュ

ビルドアップがうまく行ったマリノス相手でもクォン・スンテのゴールキックやUMAの個人突破などで前半マリノスゴールに迫った鹿島。24分のカイキのバー直撃ヘッドや40分の上田・お願いだからもう裏抜けしないで・綺世の決定機など、先制のチャンスは何度かあった。後半にもUMAがフリーで抜け出す場面があったように、決してマリノスは楽に試合を進めたわけではなかった。
それでも高丘ようへとしんちゃん&りょうたろさんコンビの個々の頑張りによってなんとか耐えると、徐々に鹿島は苦しくなってきた。とりわけ早めに交代を強いられたアラーノ、アルトゥール・カイキのブラジリアンコンビ、そして鈴木UMAの疲弊は色濃かった。
Embed from Getty ImagesブラジリアンコンビたちはマリノスのSBを見つつ、何度か下がってWGを止めにいく必要があったし、UMAに至っては深い位置からのドリブル、ロングボールの競り合い、岩ちゃんの監視とCBへのプレッシャーなどありとあらゆるタスクを担当しながらゴールを狙っていたため疲弊も止むなしといった状態だった。
特にUMAについてはチームを牽引する選手としての責任感と、できてしまうポテンシャルがゆえのガス欠だったのではないかと思うと、何度も免許試験に落ちたとはいえ彼の復帰が鹿島にもたらしたものは計り知れないなとしみじみ思った。
ブラジリアンコンビのサポートが厳しくなってきたサイドには、ケヴィンが送り出したフレッシュなWGエウベルと亮君の2人が突っ込んでいく。いずれも独力でボールを運ぶことのできる選手であり、前者はドリブルだけでなくクロスなどチャンスメイクができるし、後者はだんだんと外からクロスに合わせて点を奪うような動きができつつある。テル、宏太パイセンとは違ったキャラで、かつ疲れていない彼らをワンオペで担当するのは、常本・安西の両SBにとっては相当きつかったと思う。
この結果、前半数度あった鹿島SBコンビの攻撃参加は鳴りを潜め、マリノスはサイドから相手とボールを敵陣へと押し込んで行く回数が増えていく。
(ここらへんからエモに振ってますし、現地で観たマリサポの反応とか含めた感想文です。そういうのお嫌いな方は回れ右。)
押し込みながらも鬼門カシマサッカースタジアムの突破口をついにこじ開けたのは、去年まで鹿島にいて出場機会を失った男の正確無比な左足、そしてこの試合中ずっとチャンスを待ち続けたストライカーの一撃だった。
起きた事象にアレコレありもしない注釈をつけるのは、ヲタクの悪い癖だ。
けれど、喜びを爆発させるアンロペちゃんと永戸のかっちゃんは、今まで溜まってた鬱憤をやっと晴らしたかのような清々しさがあった。ポエミーな注釈くらい今回ばかりはつけさせて欲しい。
特に永戸のかっちゃんは、この試合の前にインタビューで次のように意気込みを語っていた。
まさしく有言実行。古巣対決の感情に囚われすぎず、それでも執念は絶やさない、彼らしく飄々と成し遂げた大仕事だった。
その時のゴール裏は、「もしかしたら今日カシマで勝てるかもしれない」という高揚感と、「1点では安心できないし、このスタジアム、鹿島という相手だと何があるかわからない」という不安がない混ぜになっているように見えた。事実キムミンテの決定機には肝を冷やされたし、周りの席を見回すと試合終了の笛を今か今かと待っているように祈る人もいた。
けれど、ピッチ内の選手はそんなのお構いなし。モットーでもある「最後の1秒まで攻め続ける」を体現するように2点目を狙いに行き、そしてまたしても左からこじ開けた。
伏線となっていたのは、ヴァイラー監督(指示の声を聞く限りもしかしたら岩政ヘッドコーチ?)の最後の賭け、松村のSB起用だった。テル、エウベルとリーグでも屈指のWG2人の相手をさせられ疲弊しきった常本に替え、投入したのは攻撃的MFの荒木。スピードがあって大外を駆け抜けられる松村を下げ、荒木を中央寄りに置くことでサイドでの数的優位を担保、永戸+エウベルの背後を狙おうとしていた。
事実キム・ミンテが迎えた決定機のコーナーキックは、そんな松村のサイドでのボール奪取がキーになってたりする。
ただこのチャンスをフイにしたツケをちゃんと叩きつけられるのが今のマリノス。
「去年からなんかジャンプ力が伸びた」と育てた豆苗でも語るように軽く自身の跳躍力UPを語った西村拓真は、その言葉の通り滞空時間の長いヘディングを決めて見せた。元々攻撃的な選手である松村1人にエウベル+永戸のいるサイドの管理を任せたヴァイラー監督としては、最も作られたくないワーストケースからの失点だったはずだ。
1点では安心できなかった私の周りのマリサポたちも一様に安堵して喜んだ。目の前にいたカップルの彼氏の方は、天を仰いで感涙。「やっと俺たちもカシマで勝てる」と確信できた人も多かったはずだ。
しかし、ピッチ内の選手はそんなのお構いなし。モットーでもある(以下略)
試合終了目前、GK高丘にボールが渡った時、1人だけスタスタと相手にとって嫌な位置取りを取り、パスを要求した選手がいた。誰あろうキャプテンの喜田さんだった。「守備の人」「リスク管理担当」と攻撃面であまり名前の上がらない彼だが、この試合の彼は容赦なかった。松村が飛び出せないほどの高さに基点を作り、そこからエウベルへパス。飛び出したレオちんに浮き球のパスが渡って勝負あり。
プロ1年目となった2012年、カシマでの勝利をベンチで見届けた喜田さんは、それ以後ずっとカシマで敗北を喫してきた。ファン・サポーターでさえトラウマだったこの地。プレーしてきた彼にとって無念はいかばかりだっただろう。
あの場にいたトリコロールを纏った人の中で、やり返したいと人一倍思っていて、しかもそのリベンジで今のマリノスの強さとスタイルを見せつけたいと人一倍思っていたのは、もしかしたら喜田名人だったのかもしれない。
そう思うと、あの3点目の呼び水になったポジショニングは、彼のリベンジへの強い執念の賜物のようにも見えた。
おわりに
終わってみれば圧巻の3-0だが、薄氷の勝利でもあった。
前半24分のアルトゥール・カイキのヘッドや上田綺世の1対1など、先制を許していたら鹿島もあんなに焦ることはなかったし、ガス欠のタイミングはもう少し後に延びたはずだ。
もっといえば、鹿島が中3日じゃなかったら、中盤の軸でもあるピトゥカが前の試合でペットボトルを蹴り飛ばして出場停止になっていなかったら、たらればの多い勝利ではあったかもしれない。
ただ、それでもマリノスはマリノスらしく勝ち切った。
スピードと流動性と使える選手のキャラクターは最大限使い倒し、最後まで向こう見ずなくらい攻め切って、観る者の感情を大いに揺さぶる。そんなマリノスの色で鬼門を突破した点は賞賛すべきだろう。
また、広島戦で試したビルドアップの新パターンとの差を確認した分、既存のやり方に磨きがかかったように思う。新加入の永戸や西村もスペースに入ったり、浮いてスペースを作ったりする動きがこなれてきた。チームとしての積み上げにも一定の手応えがあるゲームだった。
最後に、極めて個人的な感想を述べて、この文章の締めとしたい。
この試合中、私はずっと「鹿島に勝つにはどうすればいいんだ」とうんうん唸りながらゲームを観ていた。手拍子をしながらも注意はずっと相手に向いていて、誠に勝手ながらなんだか自分もピッチに立って戦ってるような錯覚を抱いた。
だから、終了のホイッスルが鳴っても、ファウルで一旦試合が止まったのだと思ってしまうほど、時間も忘れてずっとマリノスの攻め筋だけを考えてしまっていた。
10年ぶりの鬼門突破の嬉しさも、選手やチームの成長を実感できた満足感も当然ある。けれど、家に帰ってもなお残っていたのは、頭の疲労とゴールを奪うたび握りしめた右拳の感覚だった。
まるでウルトラマンなりきりセットを着ただけで怪獣を倒した気になってる子どものようで馬鹿馬鹿しい話だが、でもあの瞬間、たしかに私は浴びるようにサッカーを摂取していた。サッカー観戦という趣味の没入感、恐ろしさを垣間見たゲームでした。
とはいえ、こんな五感をつんざくようなサッカーをサポーターとして間近で観られるのは幸せなことです。積み重なった敗北の数だけやりきれない夜を超えて、ここまでやってきたんだと思うと胸が熱くなりますね。
うつくしい圧巻の近未来を願って、締めはこの曲で。
<この項・了>