目次
はじめに
※今季随一の個人的な感情を載せに載せた意見です。今更ですがこの記事は個人の見解であり、所属する組織の公式見解ではありません。ましてやプレビューでもありません。
川崎に勝ちたい。どうしても勝ちたい。優勝の可能性がなくなっても、その欲求は減退するどころか増すばかり。毎年思っているけど、この試合は絶対勝ちたい。
もはや「執着」と言っても否定できない厄介な感情は、一体全体どこから湧いてくるのか。
ダービーのライバルだから?因縁があるから?先を行かれているような気がするから?いつかの試合後に川崎サポの学生時代の知人が武蔵小杉のガストで延々とひとつも面白くない話を2時間くらいしてきたから?
なんだか全部当てはまる気もするし、全部違う気もする。
漠然とした「こいつら倒したい」という感覚を棚卸ししたら、意外にもシンプルだけど肥大化しすぎた3つの感情にぶち当たった。
感情その1:駄々っ子のような「川崎最高」イヤイヤ期
> 今はほとんどがポジショナルプレーで選手個人の判断が全くないサッカーが主流なので魅力がないですし、『サッカーをやってる』と思えるのはフロンターレくらいですよ
> 守備も消極的すぎます。ゴールを奪いに行く観点から見ても、昨シーズンそれができたのは川崎フロンターレだけでした。それ以外のチームも「ボールを取りに行くためにチャレンジ」をしようとしたけれど、結局はやめてしまった。
名前も実績もあるプロ選手にこんなことを申し上げるのは僭越極まるのですが。
うるっっっっっっっせえ!!!!!!!!
どいつもこいつも、口を開けば川崎、川崎。バカのひとつ覚えかっての。エレカシよろしく、くだらねえとつぶやいて醒めた面して歩いてやりたくもなるぜ。嫉妬だ負け犬の遠吠えだと言われようとも、その後にどんな金言が書いてあったとしても(特に酒井高徳のインタビューは同意するとこ多数だった)、どうしても「川崎が、川崎が」という言葉が頭から離れず歯ぎしりを止められない。
とはいえぶっちぎりで2連覇を決めたチームが褒め称えられるのは無理からぬこと。今はまさしく川崎の時代で、彼らこそがこの国のサッカーの最先端なのは認めざるを得ない。
辺りを見回してみれば、ワンチャンスをモノにした福岡、構造的欠陥を突くことに長けた鳥栖以外の他のクラブは、川崎の前に膝を屈した。かくいう我々も言い訳したいことは山ほどあれど敵地であっさりと負けている。
頭じゃわかってる。勝ち点という数字の重さも重々承知だ。今年の王者はオレらじゃなくて彼らで、シャーレはいまだ川崎市にある。そんな中で何を言っても負け犬の遠吠え、負け惜しみになって無様なだけだ。
けど、それでも、いやだがしかし、他ならぬマリサポとしては、何が何でもこの現実を突っぱねたいのだ。「ウチはウチ、よそはよそ。我慢しなさい」と言われて反論の余地がなくとも「やだ!」と泣き喚く駄々っ子に近いメンタリティ。
日頃不平不満があってもグッとこらえるサラリーマン生活を送ってるのだから、サッカー観戦くらいは駄々をこねさせてくれ。
嫌なものは嫌なんだ。最強王者だろうがなんだろうが連中が最高で、後はさほど…みたいな風潮がすっっごく嫌なんだ。
感情その2:ケヴィン・マリノス進化のキッカケが欲しい
Embed from Getty Imagesそんな川崎最高イヤイヤ期のメンタルとは別に、もう1つ理由なく求めたくなるものがある。にわかにその輪郭が見えかけているケヴィン・マリノス、その進化のキッカケだ。
思えば鹿島に冷や水をかけられ名古屋に味噌漬けにされて以降、マリノスは試行錯誤のフェーズに入った。(この辺はおざさんが以下にまとめてるから割愛する)
8-0などの特例はあったものの、そのプレーはどこかしっくり噛み合ってない。2位滑り込みの立役者エウベルは苛立ちを隠せないようにプレーしているし、チアゴと岩田が必死の形相でカウンターを食い止めるべく走る構図も何度も見た。なんだか迷っているようにすら見える。
そうこうしてるうちに、相手を押し込んで攻め続けていたのに、些細なほつれであっという間に失点。こんな絵を見ると嫌でもよぎる。
「あれ?これって2018のダメな頃と同じ…?最悪オレら退化してる、、?」
けどオレらの新たなスキンヘッドもといボス、オーストラリアの「壊し屋」だったケヴィン・マスカットは母国誌でこう言った。
“Throw into the fact there was quarantine and I came out a day before seven games in August. It’s been everything I expected, it’s been thrilling. To be able to continue on in F.Marinos fashion and style of football but also try to improve the team.
「隔離期間もあったから、チームに合流したのは8月の7連戦の前日だった。そこからは全ては私の期待通りで、スリリングでわくわくする日々を過ごしている。Fマリノスの流儀やサッカーのスタイルを継続させるだけじゃなく、チームを改善していこうとしているからね。」
ケヴィンは文字通り頭に毛無いとかでなく単なるアンジェの後継者で終わるつもりなど毛頭ないようだ。それどころか改善を施そうとしているとまで言った。
では彼の言う「改善」とは何か?何を課題視しているのか?
男塾塾長江田島平八かってくらい「相手は関係ない、自分たちのサッカーをするだけだ」の一言で全部押し切ろうとした前任者と違い、ケヴィンはかなり率直に言葉にしている。
改善(しようとしているっぽい)点その1:崩しのパターン増加
> 自分たちのサッカーは何かを作り出さないといけませんが、その作り出す作業は簡単ではありません。今日はチャンスを作り出し、ゴールに向かう部分を出せませんでした。自分たちで自分たちを難しくしてしまいました。ゲームをコントロールし、ボールを回せましたが、それはもっと前の位置でしなければなりません。もちろん湘南が中を閉じ、コンパクトに守り、崩すのが難しかったのも事実です。自分たちも問題を認識していますし、現実を直視して自分たちらしさを出すために修正していきたいです。
(第31節 湘南ベルマーレ戦 試合後監督会見より)
> 水沼だけでなく、(1トップの)杉本(健勇)のポジションを含め、例えば、杉本が下りれば、水沼が前へ抜けて行ったり、中央で1人多い状況を作れると考えていました。
(第33節 セレッソ大阪戦 試合後監督会見より)
10月のなかなか点が取れない時期の試合後インタビューの端々から感じられるのは、
- 「自陣ではなく敵陣でゲームをコントロールすること」
- 「中央封鎖してくる相手も崩し倒すこと」
- 「そのためには相手より1人多い状況を作り続けること」
といった、スピードを抑えられた時への危惧だった。
アンジェマリノスのトレードマークとも言えるピッチの横幅めいっぱいの幅を広く取った攻撃は、WGのスピードがよく活きる。2019年のテルやマテウス、今年の夏頃のエウベルなど、ほとんど1人で局面を打開できる選手がいれば、低め速め深めの横浜家系クロスから得点も量産できるだろう。
だが、ガンバ戦のようにブロックを組まれるとかなり厳しいことは、もはや周知の事実。
なのでセレッソ戦のような試み含めて手を変え品を変え、相手よりも1人多いエリアを作って崩す、密集を伴うやり方を試みている…とも推察できる。
この変化の予兆に疑問を呈していたのがテルだった。
「自分で打開するのも一つだけど、相手が引く中で幅が使えていなかった」
相手引いて中央硬いんだったらサイドから攻めるために幅っしょ!というのはよくわかる。
けれど、マリノスはそれ以外の武器を実装しようとしているのだとしたら、「(唯一絶対の)正解じゃない」とどこかの元10番のような気分にもなるわけだ。
とはいえサイドの幅めいっぱいがなければ生きていけないほど、テルはヤワじゃなかった。
仲川の左足ィィイイイイイイ!!!!(下田さんボイス)の前!セットプレーからの流れだったので、浦和戦での指摘とは異なる展開なのはたしかだが、テルは定位置サイドではなく、中央寄りの立ち位置からりゅーたのオーバーラップを活かしている。サイドのみではなく、中央寄りでも仕事ができることの証明ともいえるはずだ。そこに加えてガンバ戦で入らなかった左足のシュートがネットを揺らしたあたり、まさに自分の価値の証明って感じでエモかった…
改善(しようとしているっぽい)点その2:脱・ハイリスクハイリターン
とかくドラマチックになりがちな札幌戦に対して、アンジェとケヴィンが抱いたイメージは決定的に異なる。
良いゲームができました。内容も素晴らしかったです。チャンスがあった中、なかなか決め切れず、相手はカウンターが怖いチームというのは分かっていました。CKから失点して難しい状況にしてしまいましたが、選手たちのリアクションが素晴らしかったです。最後の最後まであきらめない姿勢、チャンスをモノにし、同点にして2点目を入れても3点目を奪いにいく姿勢を見ることができました。選手たちの素晴らしい気持ちを見られた試合でした。
(第10節 札幌戦 試合後監督会見より、アンジェの言葉)
サイドラインで自分が通訳や他のコーチ陣と見ていてもハラハラするだけで、どうなっていくのかというのはありましたが、このゲームを見られた方々が、エキサイティングでワクワクするような試合展開になったんではないかと思います。
(第32節 札幌戦 試合後監督会見より ケヴィンの言葉)
ケヴィンはアンジェよりもリスクを嫌うのでは?という仮説を裏付けたのが、前節神戸戦だった。マリノスが久々に支配率で相手を下回ったという事実が語られがちだが、それよりもオレにとって新鮮だったのは、代名詞のプレスよりも4-4-2ブロックで、パスを捌かせればJリーグ屈指のボランチ、サンペールを牽制する方を選んだことだった。
前線主導でハイプレスを敢行すれば、ボールを奪った勢いのままにゴールへ雪崩込める。けれど、その分かわされたら後は「チアゴに祈る」のコマンドを選ぶしかなくなるリスクもある。
ある程度ボールは持たせつつも相手の攻め手を限定し、相手が前がかりになったり単調になったりしたら「じゃあ、そろそろ我々も攻めさせていただきますね。」とばかりにギアを入れ直して攻勢に出る。プレスのやり方を工夫しつつ、リスクを低減していく。これはケヴィンも望んでいたことのようだ。
試合が流れていくうちに徐々によくなっていた部分は多く見られたと思います。神戸に対して自分たちのプレスをほんの少し修正しながらやろうっていう風に言っていました。その中でも神戸の選手ひとりひとりの質は高いですし、なかなか簡単にはそうさせてくれないなというのはありました。しっかり自分たちがやろうとしている数的優位をつくり、そしてうまい形でボールを奪う、そういう部分も試合が流れていくうちに徐々に徐々にあがっていったのかなという印象を受けます。
(第37節 神戸戦 試合後監督会見より)
また、幅だけにとどまらず密集を使う攻撃も実施できれば、ボールを失ってもその周りに味方が多くいるので、奪取もしやすくなる。この辺はヒロさんが言及しているのでそちらを参照されたし。
リスクは少なく、プレスも攻撃のスピードも出力を抑える時は抑える。「まあ、ほら、ウチってアタッキング・フットボールだし」「ウチは監督がクレイジーですから」と言って無視していたところに着手しているわけだ。
こうした改善の進捗を図る上で、川崎は格好の相手である。
ブロックを敷いてくるわけではないが、密集を伴う攻撃は川崎の十八番中の十八番だし、リーグ屈指のタレントがいるのは神戸と同じである。相手の御株を奪うように密集を作っていくのか、プレスのやり方はどうするのか。今のマリノスの現在地を図り、来季の方向性を考える上では外せないゲームになるはずだ。
ましてや新しいやり方を続けながら勝てたとしたら、チームが得る自信の大きさは想像に難くない。
今季の王者を相手にとった白星が、また新たな「アタッキング・フットボール」の扉を開く、、、なんて展開を願わずにはいられない。
感情その3:ラスボス退治の高揚感
Embed from Getty Images監督を引き抜かれ、エースを引き抜かれ、壁にぶつかっては打開策を模索して、シャーレは見えたけど触れられぬまま終わり。毎年のことだが、今年も本当に色々なことがあった。
その幕開けに冷や水をぶっかけていった奴らは、自分の手元にそれがあるのが当然かのように誇らしげにシャーレを小脇に抱えて横浜へやってくる。
「あの時は開幕当時だったから」
と開幕戦の負けに対して言い訳をする声もあったけれど、今回は言い訳なしの大一番。
「アタッキング・フットボール」という武器を迷いながら苦しみながらも今年も磨いた我々が当たるのは、今年の王者というラスボス中のラスボスだ。この武器でラスボスを攻略できるか…というRPGの最終盤に向かうような高揚感も、最終節のスタジアムに向かう足を進める材料だ。
他方、ラスボスの方はここまで数々の勇者を倒してきた。言うことなしな1年を送っても、最後に負けがつくとなると、魚の小骨が喉に刺さった微妙な感覚は覚えて年を越すことになるだろう(優勝した年にシティに負けてモヤっとしたリバプールファンが言うんだから間違いない)。
今季最後の日産スタジアム、今季最高のサッカーで、今季最強の相手に、今季最大の”嫌がらせ”をしてやろう。
<この項・了>