どうも、「久々のレビューはまたしても名古屋戦」系マリサポのお市です。相手ながらリスペクトしているグラぽさんに取り上げていただいた過去があるので、名古屋戦は頑張らなきゃといつも思っております。
マリノスにとってもこのゲームは「頑張らなきゃ」なゲームです。逆転優勝いけるんちゃうかと方々で言われていても、1戦も落とさないのが追うものの最低条件。怪我人が出てきたシーズン終盤、ここが1つの踏ん張りどころになります。上位のチームとのゲームですが、相手が誰であろうが落とせません。
対する名古屋は空前絶後の絶好調。ACLベスト8入りはもちろん、公式戦目下9戦負けなし(8勝1分)と8月三ツ沢で当たった悲壮感とは無縁のチームになって再戦を迎えます。ACL圏内の3位以内フィニッシュに向けて、相手が誰であろうが落とせないのは彼らも同じです。
「リーグ屈指の矛(攻撃力)と急造の盾(守備力)」のマリノス、「リーグ屈指の盾と最近鋭さが戻ってきた矛」の名古屋。そんな好対照な2チームのぶつかり合いを振り返っていきましょう。
名古屋戦マッチレビュー、はっじまーるよー。
目次
スタメン

マリノスは、別メニューと言われていた小池が間に合った格好。コンディション大丈夫なの…?と不安になるが、ここでも起用される辺りは、ワンツー天国を作り出せる彼の存在の大きさの証左か。
CBはチアゴ間に合わず前節同様岩ちゃんと實ッティのコンビ。
そしてLSBの座はブンちゃんが射止めた。後述するが、彼の存在がどうしても必要だった。
名古屋は、ほとんど1週間前の前節徳島戦と同じ。ハットトリックで名古屋をACLベスト8に導いたリアルガチストライカーのスヴィルツォクがスタメン。トップ下で水を得た魚のように動き回る前田直輝、未だにマリサポの心を掴んでやまない戦術兵器マテちゃんと見知った顔に加え、左サイドには2列目で信任を得た森下が入る。イメージ的には高野をLWGで使う感じだろうか。
相馬、金崎、シャビエルなど終盤の殴り合いに備えた人員もベンチに揃えた彼らは、まさに8月とは別人のよう。
名古屋が欲しかった「時間」と「前進」


名古屋の方針自体はとてもシンプルだった。「マリノスにボールを持たせ守り切り、要所でスペースが空いたらそこを突く」というもの。
鹿島や川崎が前からプレスを敢行してマリノスから自由を奪ったやり方とはまた違った方法だ。マリノスの誰にボールが渡ったら誰がチェックに行くか、その行った選手が空けたスペースは誰が埋めるか、という規律を持ち合わせるチームだからこその選択といえよう。
だが、そのままだと8月の三ツ沢でのゲームとあまり変わりない。専守防衛で守り続けても、いずれはマリノスのハイスパートに付き合わされてしまう。走り疲れてポジション取りが少しずつ遅れれば、アリの穴からゆくゆくはダムが決壊する如く崩れてしまう。ACLで上り調子だったとはいえ疲弊があった名古屋に必要だったのは、自分たちが位置どりを直すための時間と、マリノスに押されっぱなしにならないための陣地奪回策だった。
そこで大きな価値をもたらしたのが、新たなエースストライカー「クバ」ことCFシュヴィルツォクとLSH森下の存在だった。
Embed from Getty Images前者の貢献は決勝弾となった後半冒頭のゴールだけではない。ロングボールを収め、味方が陣形を整える時間を作ることこそ、クバに課された最大のミッションだった。それを物語るのがGKランゲラックのロングボール本数だ。CFがおらず前田直輝と(※伏せ字にしていますがあらん限りの汚い言葉を吐いています)を2トップのようにしていた時と比べると実に2倍近い数を記録している。(出典:SofaScore)

「とりあえずクバ」の精神で蹴とばしても収めてくれるこのポーランド代表FWのおかげもあって、名古屋はマリノスの「攻撃→ロスト→再回収→攻撃」の無限ループを回避すべく陣形を整える時間を得た。
なお、この「時間を少しでも」という考えはチーム全体で共有されていたようで、殊勲の先制弾を叩き込んだ中谷も気持ちよさそうなのが若干イラっとするがこう語っている。
--上位を相手にゲームのポイントをどこに置いていたのか?ゲームプランというか、横浜FMの特徴は、セットプレーであってもすぐに始めてくるので、僕たちはちょっと時間をかけようと。空いているように見えて、意外とすぐ近くにパスを出して、すぐにプレッシャーを掛けてくるので、そういうところはしっかりと時間をかけて、自分たちの陣形を整えながらやるというところをみんなで話していました。
Jリーグ公式サイト
ただ、いくらクバという収めてくれるCFがいても、リスタートでちょっと時間を使っても、自陣に押し込まれっぱなしでは点がとれない。そこで効いたのが、サイドアタッカーの単独突破。とりわけ森下は厄介極まりなかった。
Embed from Getty Images彼が活躍する場は、とても構造的に作り上げられていた。ざっくり仕組みを述べるとこうだ。
- クバと前田直輝はマリノスCBの左側に立ち、ボール回しを(マリノスの)右サイドへ回すようにする
- 小池は森下と長澤が交代監視、エウベルは吉田豊が基本マンツーマン。
- SB-CBの隙間(チャネル)、MFとDFの間に顔を出す喜田に入ったらCBが出て潰す
- 潰し次第森下へ渡してドリブルさせる。SB小池も高い位置まで出ているので、裏は空いている
名古屋は未だに守備が若干パルプンテ気味なマテウスのいる(マリノスの)左サイドで持たれるリスクを避けた、という見方もできるだろうが、むしろ森下の突破力に賭けて右サイドから攻めやすいようにボール回しを仕向けたとも言える。奪った後の無限ループの出口担当となった森下はその期待に沿った働きを見せ、何度か自陣からボールと陣形を押し出した。
開始10分という最高のタイミングでリードを得て「ごめん、このままだと俺ら勝つけど、どうする?」状態を作った名古屋は、引水タイムから露骨にこのサイドでのハンティングを強めてきた。前田直輝にボランチ(おおむね扇原)監視役を任せたのだ。これにより4-5-1のような形になった名古屋は、主に稲垣の担当を明確化することに成功。どちらのサイドでもマリノスのSB+WG+マルコスor喜田の三角形にマンツーマン気味に対応できるようになった。
「なんかサイドでうまく三角形作ってボールは回せてるし、名古屋のSBとSHの間とかパス入るからいけるのでは?」などと筆者はボケたことを言っていた。
でもこの隙間にパスを通される状態は名古屋からすれば狙い通りだったのだろう。
何度かマリノスは名古屋ゴールに迫り押し込むことに成功した。全21本のうち9本は枠内シュートという数値自体は悪くない話だ。けれど、そのシュートシーンは遅らせられ、迂回ルートを通らされた挙句のシュートシーンで、名古屋の選手がエリア内に人垣を組んでしまった中でのシュートばかりだった。
試しに前半のマリノスの枠内シュート時、ペナルティエリア内に何人いたかを数えてみた。左がマリノス、右が名古屋。
- 8:44 YFM 2 vs 3 NGE
- 20:35 YFM 5 vs 6 NGE
- 23:51 エリア外からのミドル。どちらもエリア内0人
- 29:19 YFM 3 vs 4 NGE
- 35:24 YFM 5 vs 7 NGE
上記のとおり、マリノスは常にエリア内で数的不利の状態からシュートを打つことになっていたことがわかる。
もちろんエリア内に人がいてもタイミングを外し切れれば、ゴールは取れる。また、サンプルの中にはセットプレー崩れからのシュートもあるので、その際はエリア内が通勤時の東横線ばりに混んでいても仕方がないだろう。
とはいえ、リーグ屈指のGKミッチ・カオガイイ・ランゲラックにとっては「打たせてもいい」シュートが多かったのではなかろうかと思う。時間を使わされ迂回ルートを回されたマリノスはなかなかミッチ・スタイルモイイ・ランゲラックの意表を突く一撃を見舞えずに前半を終えた。
久々の4-2-4と杉本健勇というロマン

後半これまた幸先よく追加点を奪った名古屋。体力の限界ゆえ図解は避けるが、岩田のミスを誘発したプレスも敵ながら見事だった。喜田と扇原のボランチは長澤、稲垣がそれぞれ前に出てマンツーマン。扇原に反転を許さず、マリノスの左サイドに向かって人を集める、いわゆる「横圧縮」の状態を作り出した。
3/5ほどの横幅でプレーを強いられたマリノスはどうにか前進を試みるが詰まってしまい、跳ね返されてしまったところから岩田のコントロールミス(というより前田直輝の位置が把握できてなかった)から失点。このミスをしたシーンだけ切り取ると高丘が前田直輝がきていることを伝えバックパスをもらう、、、などの策はあっただろうが、キックオフの動きを見る限りは、高い位置からプレスをかけることを名古屋は肚に決めていたように思う。かわしきれず失点の危機…というシーンは遅かれ早かれあったかもしれない。
つまり筆者が言いたいのは「岩ちゃん、顔を上げてくれ」ということである。
とはいえどこぞの顔がいい監督がいたら「絶対に先に失点するなよって試合で何で先に2点取られてんねん」と言い出しかねない状況に陥ったのはたしかだ。こうなるとマリノスはなりふり構わない。いつもなら相手をへばらせた75〜80分あたりから出すトドメを刺す必殺仕事人たちを次々投入する。しかも、フォーメーションも変えて、だ。
前田大然に替えてJリーグデビューとなった宮市亮はそのままLWGに。しかしその後の杉本健勇は扇原と替わり2トップの位置に入り、マルコスと替わった天野は喜田と2ボランチを組む格好。マリノス緊急時あるあるファイアーフォーメーション、4-2-4が久々に発動した。
一見するとやけっぱちに見えるこの布陣だが、改めて見返してみると理に適っている箇所がいくつかあることに気付く。
まず1つ目の狙いは、ボランチの周りのハーフレーンだ。
気付いたらすっかり3CBになって専守防衛状態の名古屋だが、先述の通り押し込まれすぎたり時間がなくなるとジリ貧になりかねない。なので、シャビエルをサイドに置いて彼でタメを作ろうとしていたように思う。
だが、その分彼の守備負担は軽めに設定しているので、あまり何度も下がって守備するよりかはある程度高い位置にいてほしい。またRSB宮原は和尚の相手が終わったと思ったら同じくらい速くて仕掛けまくる宮市の面倒を見なければならない。となるとハーフレーンは米本や稲垣が見なければならなくなる。そこに「ハーフレーン走り隊」なティーラトンと天野をぶつける。これで、左からボールを展開しやすく、また彼らのうちどちらかで跳ね返されたボールの再回収もしやすくなった。
そしてもう1つは、名古屋のDFラインにボランチが吸収される点を狙ったものだった。
マリノスが名古屋を自陣後方1/2に押し込むと、名古屋DFラインはペナルティエリア幅に横並びになる。そこをパスアンドゴーで崩しにいくと、マリノスSBについてきた名古屋ボランチもDFラインに吸収され同じ高さに立つことになる。平たく言うと3CB+2WBの5バックだったはずがボランチも足して6バックくらいになる。
こうするとさながら東京五輪で見たハンドボールのごとく、マリノスは外周からこの5,6人の人垣をかわす打開策を考えなくてはならないのだが、その分浮く選手が1人いる。2トップと言いながらトップ下のようにレオの後ろを衛星のように動き回る杉本健勇だ。
1トップにしては動きすぎな嫌いがある彼を、逆に自由に名古屋DF前で動いてもらい、足元で受けて即座にターンするボールテクニックを活かしていこうというわけだ。なんか懐かしいと思ったらオナを4-2-4で使った時にタスクは近いんだな。
81分の中谷にクリアされた宮市のペナルティエリア侵入を引き出すスルーパスだったり、83分のレオの振り向きざまシュートの前にくさびのパスを受け取ったプレーは、まさにセカンドトップ杉本健勇の良さが出たシーンだったと思う。
また杉本はマリノスにもう1つ価値をもたらす。セットプレー(コーナーキック)からのゴールだ。
ほんとすまんかった、「ヒゲともみあげがつながっているのはだいたい信用できんコンサルの証」とか言って。
ほんとすまんかった、「今後セットプレーでとるとしても實ッティのボレーくらいでしょ」とか言って。
「エリア内に人がいてもタイミングを外し切れれば、ゴールは取れる。」とさっき書いたことを証明するかのごとく、杉本はうまくニアに飛び込んだ。このやり方に慣れている長身の選手がいるといないではコーナーキックで相手に与える脅威は違うはずだ。
「マリノスにはコーナーのターゲットがいる」と相手に思わせられたなら上出来。歯がゆい思いをしたこのゲームでも、このゴールは今後に響いてくるかもしれない。
総括〜積み残し課題と向き合うこの頃〜
Embed from Getty Images終わってみればまさに名古屋に塩漬けもとい味噌漬けにされたゲームだったといえる。5バックや絶対時間作るマン金崎の投入など、フィッカデンティ監督の描いたプラン通りに進んでしまった格好だ。マリノスとしては「ボール非保持上等」とばかりに守りを固めてくる相手をどう崩すか、というもはや年中行事なんじゃないかというくらい目にしてきたいつものアレを突きつけられた。
とはいえ、一介のサラリーマンでしかない筆者の目にも少しずつではあるが、この年中行事を終わらせて「永遠のテーマ」としないための取り組みが映ったゲームでもあった。サイドに押し込まれつつもハーフレーンのさらにその半分の狭いスペースを攻略するとか、外に追いやられてクロスを上げる以外のワンツーでのエリア侵入だとか、ディテールの部分の武器は増えてきているように思う。無理やり点を奪うセットプレーもその1つだ。
あとはいかにタイムロスなくゴール前までたどり着くか、という観点でも改善を図りたいところ。
クバと前田直輝に右サイドに追いやられてからそのまま同じ右サイドで崩そうとしても、狭いスペースをどうにかこじ開ける苦行になってしまったり、結局時間がかかって相手の帰陣を招いてしまう。
速いパススピードで回しつつワンタッチ、ツータッチでピッチを横断するかのようにつなげた前半25分や、エウベルや前田大然が試みた外→中のドリブルなど、サイドに追いやられた時の回復策を作り続けるのも重要になりそうだ。
今まで「引いた相手を崩す」「速攻を封じられた時に何ができるか」という課題は積み残し課題のままで、2019はエリキとマテウス、2020はサントスなど理不尽にゲームを決められる存在の力でごまかしてきた印象は否めない。だが今シーズンはより完成度を上げて、満を持してこの課題とがっぷりよつで組み合っている。
とはいえ、残すところリーグ戦も9試合。最後リーグの頂に上り詰めたら、この敗戦も「そんなこともあったな」と笑って振り返られる気がする。大逆転のフェアリーテイルへの挑戦は、まだ続いている。
<この項・了>