【Who tha finest】2023年J1リーグ第20節vs名古屋(A)プレビュー【Who tha biggest】

お久しぶりです。「名古屋は喫茶店が容赦ない量のモーニングを出すから好き」お市です。
カフェインが切れると禁断症状を催す私は、アウェイ遠征のたびに現地のお店でコーヒーを飲みがち。中でも名古屋はお気に入りです。朝から「ウチの自慢の品だ、たんと食ってくれ」とでもいうように大盤振る舞いで出してくれます。

次なる相手、名古屋グランパスも、今の自分たちを自信満々に表現してくるチーム。煌びやかな前線のタレントはまさしく名古屋城のシャチホコのように華美で、強固な守備陣はトヨタのSUVが何台もゴール前に停まっているかのような威圧感さえ放ち始めています。試合を観ても「そら強いわ…」と思わずため息が出る始末です。

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それでもこちとら首位なわけです。アウェイだろうがホームで手痛い目に遭っていようがビビるわけにはいきません。「TOYOTAがどうした、スガキヤがなんだ。こちとらNISSAN、家系ラーメンじゃい」の精神と年季の入ったアタッキング・フットボールを携えて東海道新幹線に乗り込む所存です。(どうでもいいですが、ラーメン大好きユンカーさんは名古屋入りしてからスガキヤに何度行ったんでしょう)

異なる文化、異なるサッカー、それでも磨き上げた自負は同じ。そんな両者の首位決戦。リーグ優勝を占う上で勝利必須の6ポインター、展望を考えながら楽しみを膨らませていきたいと思います。

名古屋戦プレビュー、はっじまーるよー。

Q. 今年の名古屋なんであんな強いの?

A. 実効性を増した堅守速攻と、すべての点を繋げて線にする出戻り組の存在が大きい。

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Tips

  • リーグ戦6勝4分と、ホームゲームは今季無敗
  • リーグ戦4勝3分と、先制したゲームでも無敗
  • WB森下の今季スプリント回数は424回とリーグ最多
  • CMF稲垣の今季タックス数は77回とリーグ最多、走行距離は231.3kmとリーグ2位
  • 先月負傷が発表されたCB丸山、CF酒井はどちらも部分合流
  • 直近移籍してきたWG前田直輝、CF中島大嘉はまだ登録期間外のためマリノス戦は出られず
  • 第18節FC東京戦ではCMF山田陸が、前節川崎戦ではCB河面が起用されるなどチーム内競争も

名古屋の武器といえば、誰しもが想像するのが堅い守備と鋭い攻撃だろう。
それを下支えするのが質の高い個人。
開幕前の下馬評こそ高くなかったが、やはり国内有数のタレント集団であることに間違いはない。最後尾と最前列にはそれぞれランゲラック、ユンカーと確実に仕事をこなす顔のいい男を配置。3バックはDFリーダーの中谷に加え心境著しい藤井、その前では稲垣&米本の稲作ボランチコンビが相手の攻撃の芽を刈り続け、大外を現役代表選手の森下が駆け抜けていく。そしてフリーマンのようにマテウスが駆け回る。
なかなか崩せないゴール前の城壁に手こずっていると、些細なミスから失点してしまう、そんな「ボール保持絶対潰すマン」なチームだ。

だが、実際のゲームを見ると、昨季よりも自陣ゴール前でパスを繋ぐことが多いように思えた。
今季日産スタジアムでマリノスのビルドアップをズタズタにしたゲームでも、実はボールを持ちながら攻めるシーンが散見されている。縦に走らせればJ随一のLWB森下は上げて、RWBやボランチが降りて4バックに変わるなどアシンメトリーな形でボールを動かしていた印象。

しかも、直近のゲームを見ると、警戒して相手が左サイドに寄った後に右サイドからRWBの和泉が突いてくるパターンも実装しているもよう。森下ほどのスピードはないものの、和泉も推進力のある選手。彼もまた、名古屋の鋭いカウンターを支える大事なピースだ。

そして非保持(守備)となると、気まぐれなユンカー&マテウスの守備負担が実はそこまで高くないことがわかる。たしかになし崩し的に自陣まで下がったり、熟練選手ゆえの勘なのかラーメンが切れた禁断症状なのかは不明だが単騎突撃プレスもしたりする。だが、基本は最低限相手のパスコースを切る程度であとは体力を攻撃に残している。

この帳尻を合わせ、最低限の守備をさせているのがユンカーと2トップを組む永井。和泉同様他チームでのプレーを経て名古屋へ帰ってきた出戻り組だ。齢34でも快速は衰えず、要所のスプリントはまだ速い。だがそれ以上に守備時に周りを動かす現場監督のような姿は、自身の経験をチームに還元する水沼宏太のそれと近いものを感じる。

思えば和泉や永井だけでなく、名古屋自体もここ数年色々あった。
川崎のパスサッカーの礎を作った風間八宏の時代、イタリア人監督らしい徹底した守備と効率主義のフィッカデンティ期、そしてファストブレイク(速攻)がトレードマークの長谷川健太政権。加えて育成組織は国内屈指の強豪として、ボールを保持しながらゲームを支配するやり方に慣れている。

豊かな育成組織が輩出した藤井が攻撃で持ち味を出し、マッシモの下で守備を磨いたCBやボランチがゴールに鍵をかけ、そしてユンカーやマテウスといった速攻の仕上げ役が躍動する。それらの「点」をつなげて「線」にしているのが、風間政権を知る和泉だったりFC東京でも長谷川健太の速攻を牽引した永井だったりするのだろう。名古屋でプロ生活を初め、名古屋の外を知って円熟味を増した彼らがこの役割を担っているように見えた。

永井や和泉など過去に在籍した選手を買い戻す動きを、我々Jサポは「時を戻そう」といって揶揄しがちだが、やはり時は戻らない。むしろ前より熟練して帰ってきた場合、それは大いなるプラスに他ならないのだ。

Q. 今のマリノスどんな感じ?

A. 誰が”出なくても”マリノスへ。より安全かつ確実に「攻撃の『W』」を当てようとバージョンアップ中。

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4-1の完勝に終わった前節湘南戦、自身J1初ゴールとなる4点目を叩き込みゴキゲンの植中朝日はヒーローインタビューの終わりにこんなことを口走った。

「攻撃の『W』の戦術が上手くハマっていると思います」

攻 撃 の 『W』

ついに言いよった。なにがしか形があってチーム内で共有されてそうなことついに言いよったで、、、
ぼんやりこうかな、と思っていたことが監督のコメントで補強されることはあるが、監督から指示を受けて動く選手たちの口から答え合わせを受けるとは。しかもバリバリレギュラーの喜田名人とかじゃなく、ここまでメンバー外の期間が長かった植中が言っているのも意義深い。Wの考え方、チーム全員に行き渡ってるやんけ。

では、植中が語ったマリノスにおける攻撃の『W』とは何を指しているのか。アタッカーの立ち位置を図にするとわかりやすい。

この前方5人を線でつなぐと、Wの字に見えるこの形、相手陣地に入ったあとこの形を意識して立つようにする決まりを、攻撃の『W』と呼んでいるのではないだろうか。

この『W』のミソは、相手に二択を突きつけるような、「ちょっとズレた」立ち位置の実現にある。

例えば前の3人と後ろの2人は「相手DFからちょっと遠い」位置にいる。
画像は相手が5バックになった際をイメージしているが、相手の2番目と4番目のDFはマリノスのWの後ろ2人を潰せそうだ。けれど、少し遠のいているのであんまり前に出過ぎると、マリノスのWの3人のうち真ん中の選手にその背後を使われたりする恐れがある。とはいえWの後ろ2人を無視して引きすぎるとクロスをねじ込まれかねない。

上記はほんの一例でしかなく、突破のパターンは多岐に渡る。特にマリノスはブラジリアンズ中心にポジションチェンジが多発し多くの選手がピッチ内で住所不定になるため、Wの並びはあまり固まっていない。広島戦、湘南戦はサイドのタッチライン際を上下動するスピードと左足のクロスを持ち合わせる(だが脚はつる)LSB小池裕太がWの左上を務めることもあった。

なのでチーム内の選手にとってはあくまで「Wの形を意識して自分の立ち位置を決める」という簡単な取り決めでしかなく、必ず誰がどこに立つと事細かに定められているものではなく余白を残したものだと思う。10km近く走り回る選手たちに複雑な数センチ単位のポジショニングを求めるのは酷だが、Wになるように立ってね、くらいであれば問題はないだろう。体育の授業で「体操の体形にひらけ」と聞けば多くの子がちょっと間隔をとるようなものか。

なお、このWの成否は、実はWに含まれていないボランチが握っている。彼らの動きが緩慢で相手ボランチを動かせなかったり、相手FWに消されたままだと、Wに当てるパスコースが寸断されてしまうためだ。ある時は相手を連れ出して西村アンロペへのコースを作り、またある時はCBからのパスを引き取りながら相手をズラす・・・きだなべこコンビのえげつなさよ。

またマリノスはWを前線に立てているものの、後ろをM字にしないパターンもやっている。それを可能にするのが最近32歳になったGK一森の存在だ。

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飯倉、パクイルギュ、高丘をはじめとした面々を見てきた我々マリサポはそんじょそこらの足元上手い”系”GKじゃビビらない。それでも一森は別格だ。これとか見てくれマジ腰抜かすから。

このパスをGKである一森がCBと変わらない質のパスが通せるなら、わざわざ4バックを崩してMの字を作る必要もないし、Mの字を作っても1人フリーマンが作れる。そうなると一番恩恵を受けるのがSBだ。エウベルとのコンビで猛威を振るった永戸に代わって2試合連続で出場している小池裕太は高い位置をとって時にはWの左端に入ったりするし、松原健に至ってはネンイチゴラッソのおかわりを引き出せるような絶妙なタイミングでゴール前に入れるようになった。

それぞれ個性の違う選手の強みを使い切ってチーム内競争も喚起して特定の個人への依存度を減らしつつ、相手目線では何をしでかすかわからない攻撃を展開する。チームの成長と勝ち星の獲得というなかなか両立しない2つを実現しながら進む今のマリノスは、贔屓目抜きで好調と言って差し支えない。

それでも現場を預かるプロジェクトマネージャーのケヴィン・マスカットのコメントは手厳しい。

Q:今日の展開をどのように見ていたのか
最終的にはチャンスの数も今シーズンの中でも1番多かったゲームだと思います。確かに4点取りました。ただ、それにしても切り替えが多すぎる。
攻め込んでいた時に、 コーナーであったり、ゴールキックであったり、ボールを止めると言いますかとにかくシュートを打って終わるというところ。そういったところをやらないと、やはり展開としてはバスケットボールのようになってしまいます。
切り替えは本当に良かったです。ただ、この攻め続けるスキがあるから全部いくということではなくて、試合展開によってはコントロールするということも 1つの術として覚えていかなきゃいけないのかなと振り返って思いました。

TRICOLORE+ 『明治安田生命J1リーグ第19節 湘南ベルマーレ戦 試合後監督会見』より

4-1しようが亮君の劇的逆転弾で勝とうが、課題はあるから見つけて直す。なんたるPDCAサイクルの回しっぷり。名古屋の主要スポンサーたるトヨタもカイゼンのリーダーとして招聘したくなりそうな勢いである。まあ、柏戦とか立田が退場するまで座して死を待つ状態でしたし、そりゃ反省もしますわね。。。

たしかにそこで出てくる解決策が「失点多いから守備頑張ります」ではなく「もっとビルドアップよくして安全にぶん殴ります」なのはケヴィンとマリノスらしいのだが、それでもよくここまで漕ぎつけられたものだとしみじみ思う。ボールが両軍ゴール前を目まぐるしく行き来する”オープン”な展開は、危険だがスペースも自然発生する分攻めやすくもある。なのである種黙認してきた時期も多少はあったし、それもまた「アタッキング・フットボール」の一端なのだ、と自分に言い聞かせた日もあった。

しかし、そんな時期はもう終わり。ケヴィン就任以後ずっと地道に改善を続け、「危なげなく、かつ容赦なく」勝ちまくるチームへの航路にマリノスは乗り始めた。

では現状のビルドアップの課題はどこにあるのだろうか。湘南戦に先発したジョエルの言葉が示唆に富んでいる。

(オープンな展開だったが)今日みたいな展開だと、ウチには(相手ゴールまで)行けてしまう選手がいる。

ヨコハマ・エクスプレス無料部分より

アンロペ、エウベル、ヤン、そしてタクマ・ニシムーラ。彼ら4人にSBが絡む前線は、速く、そして無理が効く。曲芸のようなパス回しは観客のみならず相手の度肝も抜くし、プレスにハマってしまうピンチもたちまち絶好のチャンスに変えられる。速さとそれを解決する技巧は、ケヴィンの言葉を借りるなら、「バスケットボールのよう」でさえある。

だがその分、些細なパスのズレが致命傷になるリスクも依然孕んでいる。

ビルドアップと聞くと自陣ゴール前のパス回しを想起しやすいが、ケヴィンは「味方が整った立ち位置でチャンスを作るまで」を指しているようにも思う。スイッチを入れるような前線へのパスを入れるタイミングや精度をどこまで最適化できるか、これがマリノスの次なるステップと見て良さそうだ。

Q. で、試合どうなりそう?

A. ボールを持つのはあくまでマリノス。名古屋は完成した守備で迎え撃つ。

前回対戦は大エースユンカーの体調不良もあり、CFに酒井宣福を据え、ショートカウンターに活路を見出した名古屋。「一人一殺」の精神で自分の前にいる選手は捉えて離さぬマンツーマンプレスが功を奏し、マリノスを窒息死寸前まで追い込んだ。長谷川健太はやはり食えない指揮官だと再確認し「狸め…!」と歯噛みしたのは私だけではないはず。

では名古屋は前回まんまとハマったマンツーマンプレスを今回も行うかというと、筆者は少し違うと思う。理由は大きく2つある。

1つは名古屋の攻撃を最大化するには、ある程度スペースが必要だということ。
名古屋の攻撃をけん引するユンカーを活かすためには、彼らが駆けずり回るためのスペースが敵陣に欲しい。そのためには引いてマリノスの攻撃を受けながら、長い距離のカウンターで仕留めるような形が望ましいだろう。

2つは気候の問題。
ハイプレスを敢行するチームにとってファッ〇ンホットな日本の夏は大敵である。体力の消耗が半端ない。マテウスが焦れて単騎突撃をしてそこからプレスを行う可能性は大いにあるが、頭から最後までマンツーマンで走り続けるのは難しいのではないだろうか。(ただし森下と稲垣は別。あいつらは地の果てまで走る。)

ロングカウンターを備える名古屋は、マリノスにとっては「スイッチを入れるタイミングと精度」を問われる国内屈指の相手となる。ミスればDF陣はユンカーマテウス永井森下に晒される、どうだい想像しただけでなかなか背筋が凍るだろう(震え声)
だが、そんな相手にボールを握って挑んでこそ、自分たちの成長度合いが測れるというもの。先制されると先行逃げ切りタイプの名古屋の勝ちパターンに脚を踏み入れてしまいかねないので、揺さぶりつつ前半のうちにリードを得ておきたい。

そんなゲームだからこそ、マリノスはミッチの壁を超えて先制したいところ。ユースの頃からの対名古屋戦の活躍っぷりから「対名古屋決戦兵器」「名古屋絶対許さないマン」「名古屋目線で見たハンニバル・バルカ」と名高い西村拓真のパフォーマンスに期待したい。

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もちろん5月ガンバ戦以来のゴールも期待したいが、それ以上に前進の時の立ち回りにも期待したい。名古屋の5-3-2の3、つまり中盤のラインの端を使うにあたって、SBやボランチと連携してボールを引き出すCFやOMFの動きは重要になる。かと言ってあまり下がって受けすぎると名古屋DFも連れてきてしまい、ショートカウンターの温床になりかねない。「あえて走らない」「走りの質も上げていきたい」と挑戦を続けるたくまの動きは、マリノスの攻撃の成否を大きく左右するだろう。

<この項・了>

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