海外の分析クラスタの話をもとにルヴァン杯準々決勝を考えてみる

img_3723
#今年のマリノスは心臓に悪い

はじめに

注:この記事は元々ルヴァン杯ガンバ戦2戦のマッチレビューとして書こうとしたものの、上手くまとめられずにいたものを、浦和戦視聴後「これはアカン」と思い強制的に切り上げたものです。所々古い部分がありますがご容赦ください。

 

何はともあれルヴァン杯準々決勝勝ち抜き、おめでとうございます。ありがとうございます。勝ち上がった事実も大きいのですが、おーつパイセンやオリバーといった「頼むからそろそろフィットしてくれんか」と思っていた面々が成功体験を得たのは、積み上げの観点から言ってもとても良かったと思います。

そして1stレグの折、原宿の観戦会でご一緒させていただいた方、ありがとうございました。
めちゃくちゃ楽しかったです!
普段お話できない人とサッカーについて話せるって素晴らしいことだとつくづく思いました。

ただ私個人としては、「有識者」としてチヤホヤしていただいたのに、現地では

「テルーーー!テルイケーーーー!」

「ぬああああ!惜しいいいいいいい」

「あああああああやめてえええええ」

と松◯安太郎氏も裸足で逃げ出すレベルの言語能力しか持ち合わせず、何一つチヤホヤに値することが出来ませんでした。陳謝いたします。

代わりといってはなんですが、こちらで色々書いていきます。謎の専門用語や横文字は極力使わない(もしくは使うにしても注釈を入れる)ようにしていきますので、若干長くなりますがお付き合いくださいませ。

 

ポジショナルプレーの解説

試合の内容に触れる前に、1つ動画をご紹介したい。
アメリカを中心に活躍するプロサッカーコーチ、Adin Osmanbasicさんの動画だ。

タイトルは、「How to Break Down a 4-4-2 using Positional Play(ポジショナルプレーを用いた4-4-2の崩し方)」。国内外のサッカークラスタ(もとい戦術くん)の間で高い評価を得ている。
動画では4-4-2の相手を想定して解説してくれているが、他のフォーメーション相手でも適用できそうな気づきも多々ある。何より「結局ポジショナルプレーってなんなんだ?」という問いにちゃんと答えてくれるのがいい。そしてタダ。

当初私はこの動画に和訳字幕をつけようとした。しかもご本人から許可をいただいて…

しかし、始めたはいいものの自分の訳のわかりにくさにドン引きした上、字幕をつけようにも「お前に字幕をつける権限は付与されていないぞ(意訳)」とYouTube様に言われてしまったため、公開を諦めてしまった。
(支援のいいねやコメントくれた方々申し訳ありません。別の日本人サッカークラスタさんが翻訳に名乗りを上げていたためそちらで。。。)

とはいえ「和訳やるやる」といって、学び得たものを公開しないのはどうかとも我ながら思い始めた。言いだしっぺがトンズラをこくのはダメだ。ラーメン二郎でマシマシを頼んでおきながら残すのと同罪だ。
そこで今回、罪滅ぼしとしてAdinさん解説で私が学んだことを、ガンバ戦2試合のプレーを例に挙げてご紹介しようと思う。全文訳と違って全てを表現することはできないが、Adinさん解説のニュアンスだけでもお伝えできれば幸いである。

*1:ちなみにAdinさんは、欧州各国の戦術くんたちによるドイツ系分析サイトSpielverlagerung.comにも分析記事を多く寄稿している。寄稿した記事の中には、日本の戦術くん御用達のfootballistaでも取り上げられたものもある。(元の記事はたぶんこれ)

 

まず「ピン止め」より始めよ

子曰く、相手のフォーメーションを見て、最初に考えるべきは「相手DFラインのピン止め」らしい。
あ、冒頭で「謎の専門用語や横文字は極力使わない」って言った矢先に出しちゃいました。
「ピン止め」とかいう耳なじみのない言葉。
ネット上の戦術くんたちがよく使うので、主にツイッターなどでよく見る言葉だ。
平たく言うと、「自分のポジショニングで、周りの相手をその場に釘付けにし、動きを制限すること」。「自分のポジショニングで」というのがミソだ。Adinさんが動画内で説明していた例をもろパクr引用して図時してみる。

myboard1.png

この上の図では、センターフォワード(CF/9番)が相手のセンターバック2人(CB/2番、3番)をピン止めしている。仮にここで2人のうち片方が出るとどうなるか。

myboard2.png

当然といえば当然だが、寄せなかった3番は9番と1対1の状況になる。2番の寄せ方、タイミング次第では、ボールを持っている選手からスルーパスを出される可能性もある。なので不用意に飛びつくことができない。9番をマークするか、ボールを持っている選手に寄せるか、迷って止まった時点で、ピン止めができる。

ではガンバ戦のマリノスはどうだったか。1stレグ2点目、スルーパスが出る直前のシーン。
翔さんはCB2人の間に立っている。相手のDFは翔さんを意識して少しラインを下げている。その結果、おーつパイセンに寄せきれず、スルーパスを出されてしまった。
この試合に限らず、また翔さんに限らずウーゴもそうだが、マリノスのFWは基本的にDFとDFの間に立つ。その位置どりは、相手のDFにとっては判断ミスの種になり得る。

こうして、相手のDFは中盤以降の選手と分断される。

スクリーンショット 2018-09-12 20.20.50.png

だが、「ピン止め」に多くの人数をかけてはいけないとAdinさんは言う。「ピン止め」も、相手を間延びさせることも、それ自体が目的ではない。

せっかく間延びさせて中盤のスペースを確保しても、そこでプレーする人がいなければ意味がない。

しかも前や片方のサイドに人数をかけてボールを奪われた際に何が起こるかは…今季の連敗っぷりをご覧いただいたマリサポの皆様ならよくご存知かと。

どれほどスープやチャーシューにこだわっても、肝心の麺を用意できなければラーメンは作れない。スープのための煮干や昆布にこだわりすぎるがあまり、麺を買い忘れてはいけない。
そうした点を踏まえてAdinさんは、「必要最低限の人数で相手をピン止めすべし」という旨をホワイトボードに(ギリ読めるくらいの汚さで)板書している。

 

最後尾のダイヤモンドは砕けない

いいや!『限界』だッ!出るねッ!

自陣からボールを運ぶとき、第一の障壁が、相手のFW。ガンバ戦では、一美&アデミウソンのコンビがその障壁にあたる。

この障壁のことを、インターネッツの戦術くん界隈(というかfootballista)では「第1プレッシャーライン」とか呼んでいるっぽい。「第2~」がMFで、「第3~」はDFといったところか。「第1~」以外はあんまり聞かないけど。

この呼び名のとおり、最初にプレスをかけにくるのは基本相手のFWや攻撃的MF。まずは彼らをかいくぐらないと、相手ゴールまでボールは運べない。(また当然のことを小難しく喋ってます)

この「第1プレッシャーライン」をかいくぐるために、Adinさんはダイヤモンドを形成するのがよろし、と言っている。

「なんで4人なんですか?3人じゃダメなんですか?」

と言いたくなるけど、3人ではダメなんです。4人必要なんです。だいたい偉い人は何かにつけてすぐそうやって人を減らそうとしますけど、そりゃ現場が見えてない証拠であってですね・・・(以下略)

話をもとに戻そう。あと隙あらば仕事の愚痴を挟むのもやめよう。

相手2人に対して、こちらが3人だとすると、対応する相手としては簡単。

2人のうち片方はプレス、もう片方は三角形の頂点へのマークを行えばいい。

すると、ボールを持っている選手はサイドに出すか、ロングボールを蹴っ飛ばすくらいしか無くなる。(ウチだと前者が多いかな)

これでは相手FW2人をかいくぐったとは言えず、相手のブロックの外側でのボール回しに終始して何も脅威を与えられなかったり、ロングボールのこぼれ球を回収されたりする恐れがある。

なのでもう1人加えて、三角形をダイヤモンドに変える。

こうすると、相手FWとしてはそれぞれ2つのパスコースを見なければいけなくなる。片方プレス、片方マークで対応しようにも、必ず1人空く格好となる。

パスコースを確保するため、ダイヤモンドの横側両端の2人は互いに広く距離をとるべし、とAdinさんは言う。つまり作るなら横幅広めのダイヤモンドにしましょう、と。

マリノスはドゥレ、しんちゃん(チアゴ)、Taka、SBの片方、時には飯倉も含めてダイヤモンドを形成した。飯倉がこのダイヤモンドに加わるメリットは、図のようにSB2人を相手の第1プレッシャーラインの裏に送り込めることにある。

スクリーンショット 2018-09-17 20.19.10

こうすれば相手の第1プレッシャーラインを超えるためのコースが増える。現にこの後、飯倉はドゥレ和尚にパスを出し、和尚はイッペイちゃんへ供給。相手の第1プレッシャーラインどころか中盤のライン(第2プレッシャーライン?)の裏まで、ボールを運び出すことに成功した。

スクリーンショット 2018-09-17 20.35.06.png

ちなみにこの展開からの攻撃はカットされたが、内側に絞って残っていた健さんが対応し、もう一度攻撃を再開。その攻撃から2点目のPKをゲットできた。GKをダイヤモンドに組み込み、SB2人を使える利点が発揮されたシーンだった。

スクリーンショット 2018-09-17 20.49.51.png

ダイヤモンドを作って相手のプレッシャーをかわし、その先に人を多く割けば、ボールを奪われたあとの守備への移行も楽になる。ダイヤモンドが攻撃だけでなく守備に効果を及ぼす点は、Adinさんも言及している。

「3人ではダメなのはわかりました。では5人以上ではダメなんですか?」

という話も出てくるだろうが、相手が2人のとき5人ではダメなんですね。だいたい偉い人は何かにつけてすぐそうやって人を増やせばいいとお考えですけど、そりゃ現場が見えてない証拠であってですね・・・(以下略)

また仕事の愚痴になってしまった、話を戻そう。

ビルドアップの元々の目的は、ボールを相手ゴールまで運ぶことだ。頑張って相手DFをピン止めして、さらに相手FW2枚を超えても、まだ相手にはMFのブロックがある。このブロックを超えるのは困難だ。(上の図みたいにすんなり行ける時もあるけど)本当に力をかけたいのは、相手FW2枚を超えたその先なのだ。

なので、Adinさんは(またギリギリ読める程度の汚さで)こう板書している。

「(自陣深くDFラインからの)ビルドアップは必要最低限の人数で行うこと」と。相手2人に対して5人は多すぎてしまうので、Adin子の教えに反する…っていうか非効率だ、と。

しかし、相手FWが3人の場合は、4人だと不足してしまう。1stレグでのガンバは、後半に小野瀬を投入。第1プレッシャーラインを3人に増やした。すると、今までダイヤモンドの下側の頂点にいた選手はパスコースが無いため厳しくなる。

なので、第1プレッシャーラインの背後をとっていた健さんやイッペイが、代わるがわる隙間から顔を出すことで対応するようになった。つまり4人から5人ないし6人に増員したのだ。

「5人って人員割きすぎじゃね?」とも思えるが、この第1プレッシャーラインを5~6人で超えてしまえば、次のブロックは1人少ないため、数的優位は保てる。先述のAdinさんの板書でいう「必要最低限の人数」は、相手の第1プレッシャーラインの人数によって増減するというわけだ。

 

おわりに

本当はAdinさんの動画では、この次のステップ、中盤のラインの攻略法も言及されているが、いったんこの辺で。(折を見て追記します)

ここで触れた「ピン止め」と「ダイヤモンド」は、3バックを敷いても4バックを敷いても意識すべき点だ。そしてルヴァン杯ガンバ戦2戦は、この2つの考え方による恩恵を大きく受けた試合だった。もっと言えば今期の理想であるポジショナルプレーがうまく発揮され、そして結果も得られたゲームだったといえるわけだ(いやもっとやれただろというのもわかるけど)。

浦和戦で最後に見せた放り込みに走らずとも、このように相手を崩しきるやり方はチームに根付いている。そして(まだ相手のレベル次第だけど)そのやり方を実践に移せることは、ガンバ戦2戦や柏戦で証明している。

この順位で言うのも変だが、その「やれる」という部分に関しては自信を持っていくべきだと私は思う。「残留するためには」「勝つためには」1年近くを費やして練習してきて、お金を叩いてそのための人材を買い漁るなどして向き合ってきた、今のサッカーを貫き通すのが現在取りうる最善手なのだ。パワープレーの練習より、パスを繋いで相手の裏を突く練習の方が多く積み重ねてきたはずだ。パワープレーをやるなら、久保建英ではなくベルギーのフェライニでも引っ張ってきたことだろう。

「ポジショナルプレーをチーム内あまねく全員に根付かせ結果に繋げる」、このミッションは確かに困難だ。だが、チームの行く末、日本が今後迎える(はずの)サッカーの発展を考えると、ぜひともやりきりたいミッションでもある。それでは今日も元気に、ハンミ!カラダノムキ!

コメントを残す