【23番は】2019J1リーグ第28節vs磐田【エースの番号】

はじめに

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「23番をF・マリノスの象徴となるような選手が付けてもらえるように。自分がそういう選手のパイオニアになれるようにと思って」(2019年新体制発表会での仲川輝人のコメント

どうも、「個人フットサルで9番ビブスもらうとニンマリする」系マリサポのお市です。今では塩作りに励んでいるあの人を思い出します。

前節は色々突っ込みすぎて時間切れになったから巻いていきますよ!早速結果どん。

かなーり苦しみましたが勝ちました。ボスの試合後インタビューが「ま、ちょっとはやりたいこと出来たんじゃないかネ」と、楽天時代のノムさんを想起させるぼやきっぷりだったのも無理はない出来でしたが、勝ちは勝ちです。(通訳のゆっちさんは色々空気を読んで”しっかり”と訳してたけども)

そしてスタッツどん。(出典はいつも通りSofaScore.com。緑がホームの磐田、青がアウェイのマリノス。)

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2桁いった被シュート本数、倍の数入れられたクロスが物語るように、我々は結構カウンターを喰らいました。スコアとしてはリードしていてもどちらにもチャンスがあって落ち着かないゲーム展開に、仙台戦を思い出した人もいるのではないかと思います。

では、なぜ仙台戦同様ゲームをコントロールしきれなかったのか、反対になぜ仙台戦と違って勝ちきれたのか。その2点を考えながらゲームを振り返ってみましょう。

それでは磐田戦のレビュー、はっじまーるよー。

 

ボール支配率60%切りが示すもの

スタメンはこんな感じ。(作った直後に向きが反対だと気づいてしまったが気にしない)

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マリノス側は喜田、ティーラトンが累積警告に伴う有給出場停止から復帰。また左WGには渓太ではなくマテウスが先発。
磐田側は「#dekasou」こと川又堅碁が負傷離脱。その代役には、かつて東福岡高校でその名を轟かせた藤川虎太郎が入った。また、ボランチにはベテラン今野を配置。「守備からカウンター」というメッセージを強く感じる人選となった。

ゲームはキックオフから殴り合いの様相を呈す。ボールがお互いのゴール前まで飛び交う、0-0で迎えた試合終盤のような展開だった。この展開は磐田に有利に働いた。やるべきことがとてもシンプルだったからだ。

 

 

作られたズレと復活の凸凹ホットライン

絶対ボール収めるマンのルキアンと、彼を基点とした迷いのない裏抜けに苦しんだマリノス。だが、給水タイムを皮切りにある変更を加えて息を吹き返す。その変更を示すために、ゴール前に至るまでのパスとドリブルを図にしてみた。左がキックオフから給水タイムまでの2本を記録したもの、右はオウンゴールのシーン。

左はシュートに至るまでに少なめに長いパスを常に前向きに出している。手数少なく前進した格好だ。エリキ、マテウスの両びっくり人間のドリブル(波線)を攻撃のきっかけにしている。基本的には左右どちらかのサイドタッチライン際でのみボールを動かしているのも注目。

対して右は多めに短いパスをつないでいる。その中には後ろ向きや横向きのパスもある。またドリブルはなく、最後ペナルティエリアへ突っ込まれた長めのスルーパスが攻撃のきっかけになっている。中央を経由して左右を横断しているのも見て取れる。

では「パス本数を増やしたこと」は何を意味しているのだろうか。
個人的には「配置の修正」をするための選択だったと思う。一見安パイそうなパスを繋ぎながら少しずつ移動する/させ、自分たちと相手を攻め続けやすい配置に修正できた。

攻め続けやすい配置とはなんぞやというと、今回の場合は「自分たちは幅を保ったまま、相手は片方に寄せる」配置がそれだった。オウンゴールを引き起こす前を図にしてみる。

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左サイドでマリノスの選手がパスを回す中、磐田の選手がだんだん集まる。奇しくもアツマレェエエエエエエで一世を風靡した今野もマーク対象のクリリンを追って集まる。こうしてできた配置のズレが、そのまま右サイドへのパスコースとなる。迷わず横パスで右に回せればこちらのもの。狭い隙間でもするりと通す”キングケニー”のお出ましだ。(1点目は0:17まで)

磐田のLSB宮崎はボールとえりりんが見える位置にいた。「まだ横パスを出すだろう。万が一チャネルを抜けてくるとするならエリキ」と考えていたのかもしれない。だが、テルを死角に置いてしまっていた。
宮崎個人の失策というよりは、パスを回される中で誰が誰をみるかという磐田の「守備の判断基準」が乱れてしまったのが大きいと思う。その乱れを見逃さず完全に死角に入ったテルは見事だったし、それを見逃さずにコース・強さともに最適のパスを通した健さんは流石といえる。トップ下のクリリンや司令塔のタカではなく、SBがこのパスを出して攻撃のスイッチを入れられるってのがまた憎い。

「テルメンス©️OJさん」と呼ばれるテルのCF起用や広瀬陸斗の台頭により、長らく封印されていた凸凹ホットライン。去年猛威を振るったこのコンビが、オプションとして復活したのは今シーズン残り6節を戦う上でとても大きいはずだ。

 

DFラインの我慢を数値化する

磐田のやり方にも慣れ、このままマリノスは一気呵成!と言いたいところだが、磐田はそこまでやわな相手ではなかった。
後半磐田は守備時に一層人を重視するようになった。具体的に言うと、SHがより高い位置をとり、前からのプレスに行きやすくなった。パギやCBがボールを回す時は2トップがこれを監視、SBへボールが入った場合はSHが迷いなく食らいつく、湘南寄りの激しいプレッシングだった。

こうなると展開は仙台戦に近くなる。プレスを避けるために後方からのロングボールが増え、縦に急ぎすぎる状態になり、ロストとそれに伴う被カウンターが増える。
奪った後の磐田はSB裏にルキアンや藤川を流し込み、サイドで基点を作った。ここでも「絶対ボール収めるマン」ルキアンが猛威を振るい、65分以後は失点してもおかしくない試合展開だった。
しかし2018年と違い今のマリノスには、プレスをかけられた時にロングボールで回避する預け先として、えりりんやマテがいる。林舞輝さんに言われた「蹴れないポジショナルプレー」を少しずつ脱却しつつあるといえる(まだ根に持っている)。ふはは!これぞ戦術兵器よ!マテイケーーーー!

などと言ってボールを進めると、預け先であるエリマテがいかんせん縦に縦にと急いでしまう。そのため、後ろの押し上げが間に合わなくなる。えりりんやマテが2人3人でシュートまでこぎつけてくれるなら彼らに任せてもいいんだが、実際そこまで相手DFはヤワじゃない。
彼らがシュートまでいけずにロストして相手ボールになったら、相手を待ち受けるのはマリノスの前線とその後ろの間にある広大なスペース。そこを使われること即ち、マリノス被カウンターのピンチ。「今は縦に急ぐべき」「今は時間を稼ぐべき」というチーム全体での意識共有はまだ不安が残る。

それでもマリノスはDFライン中心になんとか水際で耐えた。左からのクロスには健さんが絞って対応してたし(180cmオーバーのSBが重宝する理由か)、ブンちゃんも相手のSHや流れてくるFWに苦しみつつも危険なスペースを埋めてくれた。
ただやはりCB2人の奮戦は格別だった。とりわけ後半21分のチーちゃんのルキアンへの対応は素晴らしく戸田解説員に「丁寧」と言わしめた。(あの”身体能力頼み”と呼ばれたチーちゃんが!!)

DF陣のチートっぷり獅子奮迅ぶりを示すデータとして、PPDA(Passes Allowed Per Defensive Actionの略。ペンパイナポ-アッポ-ペンの略ではない。)という指標がある。

これは「相手に自陣で許したパス本数」を「守備的アクション回数」で割ったもので、この値が低ければ低いほど高い位置でのプレスが機能していることを意味する。ハイライン・ハイプレスを標榜するマリノスにとっては、この値が低ければ低いほど、プレスがガンギマリしていることを示すため好ましい。
下の図は10分ごとのマリノス側のPPDAの推移。

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後半の終盤になると、途端に自陣で磐田に許すパス本数が激増した。タカが脚をつったように、終盤運動量が落ちてプレスの強度が落ちたのも要因だが、磐田が絶えず裏を狙い続けたのも大きかったと思う。
という具合に自陣でのパスを許した中で、チアゴの奮戦は際立っていた。75〜90分+ATの20回の守備アクションのうち、5回を記録した彼は、磐田陣営からすれば厄介極まりない存在だっただろう。

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その者、23番を纏いてトリコロールの先頭に立つべし

ただ、マリノスのプレス強度は上がりつつある。その中でも屈指のパフォーマンスを見せ、前線からのプレスの総指揮官となっているのが、誰あろうテルだ。

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テルの守備の素晴らしさの最たる部分は、ボールを奪われた直後に現れる。ボールを奪われた直後にそのままプレスに行く「コンマ数秒すらない切り替え」を見せ続けている。しかもそれでいて、終了前数分で試合を決定づける一撃を叩き込む体力が残ってるのも恐ろしい。

DAZNの中継でチームメイトを叱咤する姿もどアップで抜かれていたように、テルは文字通りチームを牽引する選手になったんだと思う。今年の新体制発表会での発言どおり「攻撃も守備も速い」「相手を圧倒し続ける」マリノスのサッカーを象徴する選手になったといえよう。

あと改善すべき点は、プレスの「精度」だろうか。えりりんは後ろを顧みず相手CBを地の果てまで追いかけるし、マテウスはプレスのタイミングをタカに指示されてたりしてる。どこまで追うか、いつ追うかという判断の「精度」が課題だ。
来期もその後も今の前傾姿勢なサッカーをやる場合、前からのプレスで相手の選択肢を絞り、DFラインの負担を軽減するのは必須事項ともいえる。是非ともあと6節の中で改善して、「攻守ともに強いチーム」としてシャーレを掲げてほしい。

全然関係ないがアダイウトンは「えーっ!?」って時の顔が広瀬アリスに似てる。たぶん。嘘だと思う方はDAZNの02:02:21(試合の時間だと88:58)あたり観て欲しい。こういう時はDAZNでスクショがとれない(とっちゃいけない)のが辛い。

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おわりに

後半分析っていうかお気持ちでしたがいかがでしたでしょうか。大事な大事な勝ち点3を得たマリノスですが、まだ試合は続きます。残留争いに巻き込まれて血眼な相手がいたり、前半戦こっぴどくやられた相手がいたり、因縁の相手がいたりします。それらに全部勝たなければ、3位からの逆転優勝は夢物語のままです。このまま成長を続け、1試合ずつ勝ち星を掴んでいってこそ、「アタッキング・フットボール」は1つの成果を得たといえるのではないでしょうか。

「ここまでいかに大変だったかではない。やり抜くかどうかだ。」テルと同じ23番を身にまとったエース、マイケル・ジョーダンの言葉でお別れです。

(※ブログ内での写真はすべて公式マッチレポートより)

<この項・了>

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