4-4-2でボール支配率を大切にしないチームなんて大嫌いだ!(泣)
目次
はじめに
どうも、「ゲド戦記公開から13年経っていることを認めたくない」系マリサポのお市です。数字って残酷ですね。
我々サッカー好きにとって残酷な数字は、年齢や公開年だけではありません。私なんかは3字の数字だけでもオエっとくるようになってしまう体になっています。その数字こそ、4-4-2。マリノスが今期初めて迎えたリーグ戦3連敗、その相手(清水、鹿島、C大阪)はすべてフォーメーションが4-4-2でした。イタリアの名監督カルロ・アンチェロッティは著書の中で「4-4-2は選手一人一人の担当するスペースが狭く、最も守りやすいフォーメーションだ」と言っていましたが、その意味を痛感する今日この頃ですね、はい。
とはいえボスもマリノスの選手も、3戦手をこまねいて殴られ続けたわけではありません。手を変え品を変え、この鬼門から突破しようとしました。最後まで崩しきれずに終わった清水戦の反省を活かした鹿島戦では、扇原(タカ)やティーラトン(ブンちゃん)のサイドチェンジを織り込みながら攻めました。
そして3度目の今回とった対策は…まさかまさかの大シャッフルです。スタメンどん。
エリキ、マテウス、渡辺皓太と夏の新戦力3人を一挙に起用。しかも4-4-2(ほぼ4-2-4)にスタートの立ち位置を変える大変更。肉じゃがを作ろうとしてたのに、いきなり熟カレー突っ込んでビーフカレーにし始めたくらいの見た目の変わりっぷりです。
試合後、賛否両論(というか結構”否”の率が高かった気がする)あったこのパルプンt…じゃなかった大シャッフル、どういう狙いがあったのか。早速振り返ってみましょう。
今回からゲームを「攻撃」、「ネガティブトランジション(攻撃→守備の切り替え)」、「守備」「ポジティブトランジション(守備→攻撃の切り替え)」の4つに分けるレナート・バルディ氏の「チーム分析のフレームワーク」を用いながら振り返ってみます。
難しい横文字っぽく思えますが、要は「サッカーのゲームを4つの局面で考えよう」というものです。※今回は時間の都合で「攻撃」と「ネガティブトランジション」に絞りました。
それでは、セレッソ戦のレビューはっじまーるよー。
攻撃 (ボール保持)
2トップ?4トップ?残念!0トップでした!
スタメンの表記としては4-4-2で、エリキ(エリリン)とマルコス(クリリン)の2トップのようだったマリノス。だが実際蓋を開けてみると、エリリン&クリリンはCBの前に位置をとった。これに加えていつも通りSBも内寄りのポジションをとる偽SBを実施。すると図のとおり、中盤付近に2トップ+2ボランチ+2SBの6人が集結することになる。
この変則的な0トップの狙いの1つには、相手のボランチとサイドハーフに、誰を監視するべきか悩ませることにあったと思う。もちろんエリリン&クリリン(もはや言いたいだけ)は野放しにしにくい。といって降りる彼らを追いかけると、もはやお馴染みになりつつある、ティーラトン(ブンちゃん)、広瀬(りくと)のハーフスペースへのランニングが炸裂する。いわゆる守備の基準をずらすことができた。。。はずだ。少なくとも先制されるまでは割とできてたと思う。
汎用人型戦術兵器マテウス
この中央での数的優位を可能にしたのが、いつも通りタッチライン際目一杯外に広がったWG2人だった。とりわけマリノスから見た左サイド、マテウスの影響力は凄まじかった。
とにかく次のプレーが読めない。「突破できないだろうな」と思ったら急旋回して突破してくるし、思ったより早く鋭い弾道のクロスを放ってくる。(中で合わせられるかどうかは別として)対面した選手からすれば、乳幼児より目が離せない要注意人物だったはずだ。
そんな要注意人物がタッチライン際にいたら、野放しにはできない。なので相対するSBもタッチライン際に張る。マテウスがボールを受けた箇所と、セレッソの選手がそれぞれ何回マテウスとマッチアップしたかを以下に記録してみた。
(下地になっている戦術ボードの図は @Gakumorita さん作のTactical Board を使用)
マテウス自身はタッチライン際でボールを受けており、それに対して松田陸、水沼ジュニオールといったセレッソの右サイドの選手が多くマッチアップしている。水沼ジュニオ(表記揺れ)、松田陸がよくマークできていると見ることもできるが、マテウスが彼らをタッチライン際に「ピン留め」していたとも言える。
また右サイドの2人の裏をとってCBヨニッチを引き出したり、ボランチの木本や2トップの奥埜まで引き寄せたりするなど、相手を定位置から動かすこともあった。
これらはなんの脈絡もなく突き抜けていくマテウスの凄み、それっぽく言うなら「質」があってこそできたことだと思う。
基本マリノスは相手をピン留めしたり、定位置から動かしたりするために3人以上で「数的優位(数が多いから相手をやっつけられる状態)」を保ってローテーションを使ってきた。
だが「質的優位(うまいから相手をやっつけられる状態)」が担保できるマテウスがいるなら人数をかける必要はない。彼1人で相手をこちらの好きな位置に留めたり動かしたりでき、スペースも作れるからだ。どこかマルティノスを思い出させる戦術兵器っぷりである。
押してダメならちょっと引く
とはいえ、なかなか前半はセレッソを崩しきれなかった。早い時間帯で先制されてから、セレッソがブロックを低めに設定したのが理由の1つだと思う。仕掛けようにもペナルティエリア周辺に敵味方が密集しすぎたのだ。
試しに前半、マリノスがシュートを撃った際の、ペナルティエリア周辺のマリノス、セレッソ両軍の選手の数をカウントしてみた。そのうちオレンジの四角で囲ったのは、ペナルティエリア外からのミドルシュートの場合の数値。(グラフの作り上セレッソの選手数がマイナスになってますが、セレッソの選手の霊圧が消えたとかそういうのではありません。)
このように、セレッソはかなり自陣深くで守る傾向が強かった。ボールがハーフウェーライン近くを超すまでは、逆サイドの選手が中央まで絞りながら横にスライドしてボール付近のスペースを極小化する。だが、自陣側のピッチ1/3まで来たら、ボランチやSHも下がり、場合によってはペナルティエリアに入ったりしていたように思う。この割り切った守備にマリノスは攻めあぐねてしまい、前半無得点で終わってしまった。
割り切って引いた相手に対し、押し込みすぎてスペースを失ったマリノスは、後半手段を少し変えた。まずCBとボランチが主体になって、深い位置(といってもハーフウェーラインちょい後ろくらいだけど)でボール回しをする。するとセレッソの前線が「縦パスを通されまい」と、プレスに行かないまでも前に出る。これでFWでありながら下がってサイドのフォローも行った奥埜や両サイドハーフとボランチ以下を引き離すことに成功。SB前に広めのスペースが確保できた。
一度スペースが出来てしまえば、あとはチームびっくり人間が火を噴くのみ。前半は0トップ風に下がりつつも、窮屈なDF-MF間で呼吸困難に陥っていたクリリン&エリリンが実にあっさりゴールを奪う。
このゴールは相手のクリアをチアゴ(チーちゃん)が拾ったことに端を発している。なので「カウンター」または「ファストブレイク(速攻)」と見る向きもあるが、起点になったスペーが空いたのは、その前のポゼッションがキッカケだと思う。エリリンことエリキが使ったスペースは、まさしくSBの手前。前半にはここまでだだっ広く空いてなかったスペースだ。押し込むだけでなく少し引くことで生まれたスペースと言える。
ネガティブトランジション(守備→攻撃)
本当は怖い「サイドでのN字パス回し」
押し込んでは戻しながら、SB-SH間のスペースを使って4-4-2ブロックへの打開策を見出だし始めたマリノス。ボールも相手も敵陣に押し込めることができた。以下にマリノスとセレッソの両軍がタックルされてボールを奪ったり、インターセプト(パスカット)してボールを奪った箇所をプロットしてみた。青がマリノスの奪取位置で、ピンクがセレッソだ。
前半のボール奪取位置。
後半のボール奪取位置。
ここからわかるように、セレッソのボール奪取は自陣深くが多い。マリノスがボールをセレッソ陣内へ押しやっていたことの証左とも言える。
だが我らがマリノスは負けた!なぜだ!
ウイスキーのロック片手に「坊やだからさ」と一言で片付けるのは簡単だが、もう少し原因を深掘りしてみたい。
深掘りのヒントは2失点目のフリーキックに至る前の前、70分のプレーにあった。(こうやって得点シーンの前の前とか言うと通ぶれるから言ってるわけじゃない断じて)
同点の勢いそのままに押し込むマリノス。右サイドのペナルティエリア脇へ飛び込んだりくとへテルからボールが出るも、そのパスを丸橋にカットされてしまう。
このこぼれ球を拾ったセレッソCBせこあゆむ(ひらがなで書くとかわいい)はダイレクトで前方にいた清武につける。思い返すとせこあゆむがここをダイレクトで、かつ強く正確に出せたのがすべての起点だった。攻撃→守備のネガティブトランジションをしようとしたテルの清武へのプレッシャーがワンテンポ遅れたのだ。
パスの速さから色々悟った清武はこちらもダイレクトで後方の丸橋へ。テルが頑張って急旋回して二度追いするも、またしても間に合わず。この時清武がフリーになったのを見つけたのは中央にいたナベコウタだったが、あまりにも遠かった。別段プレッシャーもない丸橋は、フリーの左サイドを駆け上がる清武へスルーパス。かくしてセレッソは自陣ゴール前からマリノス陣内へボールを運べたのだ。
たしかに全てのキッカケになったせこあゆむも素晴らしいんだが、こうした「前につける→後ろに落とす→もう一回前へ」というN字のボール運びは開幕戦のガンバ戦からあった事象だ。ある程度ボールを運ばせてもCBコンビが弾けるからいい、という割り切りなのかもしれないが、マリノスは未だ打開策を見つけきれていないと思う。プレスのかけ方やそれを可能にする各選手の立ち位置は、改善の余地があるポイントではないだろうか。
おわりに
新戦力を多く使い、今までやり慣れてなかった攻めの形を試したので、探り探りの部分もあったと思います。もしかしたら「人が多く絡むマリノスの攻撃サッカー」が損なわれたようにも見えるかもしれません。しかも首位を追う上で3連敗は痛恨です。
ただ長い長い90分ものサッカーの試合の中で、全てが上手くいくことも、何もかもダメだったということもないはずです。今回だって見方を変えれば、新戦力を活かした攻め方を習得しつつある過程と捉えることもできます。マテウスやエリキの良さ、さらにはパギには無い大地の良さが活きる瞬間があったわけです。先述したように、後半は段々と噛み合い始め、個々のキャラクターが活きてきました。あの45分こそマリノスのサッカーが「死んだ」のではなく、根幹を残そうとしながら変わりつつある証だと私は思います。
なにより、勇猛果敢にトライアンドエラーを繰り返してブロックを崩しにかかる選手たちの姿こそ、「マリノスはまだ死んじゃいない」と雄弁に語っていたのではないかと。次の名古屋戦は向こうも攻撃的なチーム。今でこそ沈んでいますが、前回対戦では手を焼いたようにポテンシャルのあるチームです。しかもまた4-4-2が基本のチーム。そんな難敵相手に、マリノスの形で勝ちをもぎとれたら、疑いを自信に変えられると思っています。
それではこちらの曲で今回の記事を締めようと思います。サンボマスターで「ロックンロールイズノットデッド」
<この項・了>