はじめに
どうも、「コパアメリカでのミヨッシの2点目を電車内で見てガッツポーズしたら隣に座るお姉さんに白い目で見られた」系マリサポのお市です。三好は横浜の子、異論は認めぬ。
じゃなくて松本戦の話でしたね。
結果はご覧の通り、ウノゼロでの勝利。最後の最後にこじ開けた、カタルシス満点のゲームでしたが、冷静に振り返ると辛勝だったかと思います。
エモい辛勝の後こそ冷静な振り返りが大事ということで、まずはスタッツを振り返ってみましょう。出典はいつも通りSofaScore.comです。
スタッツ振り返り
見よやこの支配率を(なお枠内シュート数)。
かつて我らが松原健や喜田拓也をU-17日本代表で指揮した吉武博文監督は、「89分間ボールを一度も取られずにプレーして、ラスト1分で得点して、1-0で勝つ」のが理想と語っていたそうですが、それに近いゲームになりました。
じゃあこのゲームはマリノス的にもオールオッケー(HOT LIMIT)な理想形だったかと言うと、そんなことは無いというのが選手たちのコメントからも伝わります。
「自分たちでルーズなパス回しをしてしまった。序盤が悪くなかっただけにこのまま続けていけば点を取れるだろうという雰囲気で停滞してしまった。(中略)ただ相手は前からプレッシャーをかけてきたこともあって難しい展開になったし、もしかしたらミスやセットプレーからの失点で負けてしまうかもしれないという不安もあった」朴一圭
「勝てたのは良かったけど、もっと上を目指せる余地がある。ひとつ勝っただけなので、もっと上を目指したい。」喜田拓也
2人の意見だけでチームの総意とするのは難しいでしょうが、「危うく勝ち星を落とすところだった」「まだ改善の余地がある」という及第点くらいの感覚がチームにはありそうです。
では、具体的にどの辺が「改善の余地」だったのか、そして「それでも勝てたのはなぜか」を考えるべく、何個かの問いをもとに試合を振り返ってみます。一時期のサ○ダイのマッチレビューみたいな感じですね。
松本戦レビュー、はっじまーるよー。
Q1. マリノスはソリボールを封じられたのか?
スタメンはこちら。
マリノスは「マルコス・システム(by天野純)」で勝ちを重ねた。が、その肝心のマルコスa.k.a.クリリンが前節清水戦でスタンドに(よしゃあいいのに)アーチを描いてしまいイエロー2枚目で退場。本人は大いに反省したもののこの日も欠場となったため、元の4-1-2-3に戻し、U-20代表W杯帰りの「ハマのプリンス」「かわいいが過ぎる」山田康太を抜擢した。
対する松本はいつもの3-4-2-1ではなく、3-1-4-2を採用。藤田、飯田、守田の「田のもしい」センターラインに加えて、3センターに3センターをぶつけ、2トップでCBをマンマークできる体制をとった。「マリノスさんの今やっているスタイルとガチンコで勝負する」と鬼畜眼がn反町監督が言ったり、飯田が「今日の試合のためだけにいろいろした」と言ったりしたように、ゴリゴリにマリノス対策をかましてきよった。
その「ガチンコで勝負する」べく鬼畜眼がn反町監督がとった攻撃の手段が、世に言う「ソリボール」。前線のターゲット目がけてロングボールを蹴って来る。だが、ロングボールを誰かにあててセカンドボールを拾ってそのままゴール前へ突っ込む…みたいな形はあまりない。
結局ソリボールの主目的は、敵陣内で相手のミスを誘発すること。ロングボールを蹴ってボールと自分たちの陣形を前進させ、相手のミスを誘発することにある。そこでセカンドボールが味方に渡れば儲けもの、相手に渡ればボールホルダーにプレッシャーをかけてボール奪取。この相手に渡った時のプレスの速さと、それを担保する陣形整備こそが、ただのロングボールではなく「ソリボール」と呼称される所以か。
図は前半松本が浴びせてきたロングボールと、そのセカンドボールが松本にどれほど入ったかを表したもの。赤のバツ❌がついているのはマリノスにセカンドボールをとられたことを示している。
結構な割合でマリノスはセカンドボールを回収している。だがサイドのタッチライン際に近い方向へのボールなどは、SBがこれを外に出して松本のスローインにするケースも多かった。そのため、「直接セカンドボールは拾われたわけじゃないんだけど、相手がじわじわ自陣に迫ってきている」という状態を招いてしまった。空中戦が不得手なティーラトンa.k.a.ブンちゃんのいる左サイドや、喜田名人の縄張りであるアンカーの位置に向けてのロングボールが多いのも、「ミスを誘発」しやすいという狙いからだろう。
松本のように、ロングボールを蹴った後の陣形まで整備するチームに対しては、セカンドボールを拾えたから相手のロングボール作戦は封じた、とは言い難い。ディエゴ・オリヴェイラを抱えるFC東京などもロングボールからのミス誘発と前進を狙ってくると思うので、マリノスも対策を講じていく必要がある。
Q2. なぜハーフタイムでボスは怒ったのか?
対するマリノスはしっかりボールを保持しながらゴールを狙いに行く形をとっていた。
前半8分のテルのシュートは、割と松本の守備意識が「スペース<人」のマンマーク気味な点を活かし、片側のサイドに人を集めた(オーバーロード)のが功を奏した。
「ここじゃああああ!」とヤマを張って突撃しにきたエドゥアルドをAJがかわしたのがキッカケ。(なんか既視感があったのは入団初期のミロシュもこんな感じで突撃してきたからだろうか)
その穴を高橋諒が埋めると「あれ?仲川誰見るんだ?」という状態に陥り、フリーのテルへボールが渡るという仕組み。というか清水戦のエジのゴールに引き続きわー坊こと和田拓也が、およそSBとは思えぬ動きでゴールを演出している。兵藤慎剛と同じOSが入ってるのでは…
だが、このように中盤の中央を使えたのも前半20分くらいまで。徐々にマリノスは松本城のごとき難攻不落の5-3-2ブロックに手を焼き始め、喜田名人から前にボールが運びにくくなってしまった。
そこで機転を効かせたのが、ハマのプリンスこと山田康太。試合後、彼は自らの判断で(周りの天野純とかと合意の上で)IHからボランチの位置に下がったと明かす。
山田康太が下がったことによりビルドアップ部隊は2CB+SB1人+アンカーのひし形から、2CB+2ボランチの正方形になった。
これで少しずつ中央を使えるようになるか、、、と思いきや、今度は逆に中盤に人が集まり過ぎてしまい、スペースがなくなってしまった。一方でサイドのWGへのパスコースは空き始めたので、2トップの脇を抜けるようにWGへパスするような攻め方が構築されていった。
ボールは持てど、なかなか崩せず前半を折り返したマリノス。試合の後、AJこと天野純は、前半終了後ボスに叱られたことを明かした。
コメントのとりようによっては、
- もっとボールを触りに下がれ
- ポジションにこだわるな
とも読み取れて、エリク・モンバエルツ前監督が説いたとされる「メインテイン・ポジション(極力動かず立ち位置を維持する)」大好き勢からするとかなりモヤっとする。
かくいう私も「メインテイン・ポジション大好き」「ムッシュ、メルボルンの監督就任おめでとう」勢なので、割とモヤっとした。「自陣でのパスが多すぎた」って言ってもAJを下げてビルドアップに人員を割きすぎては、相手ゴール前で人員不足になるのでは?と。だが試合を見返してみると、ボスがキレながらも伝えたかった意図が2つほど垣間見えた。
1つは単純に相手を押し込めてソリボールの効果を下げること。前述のように松本は「ロングボール→FW競り勝つ→味方がセカンド確保→速攻」だけを狙ってロングボールを放り込むわけではない。「ボールを相手陣地に運び、味方が相手陣地に雪崩込む」ことが第一の目的で、そこからプレッシングかけてショートカウンターに持ち込んでくる。つまり、ボールが自陣深くにある時間が長いほど松本によってミスを誘発される危険性が高まるということだ(考えてみりゃ至極当然なんだけどちょっと大仰に言ってみた)
なのでマリノスは、まずボールを前に運びたかった。何はともあれ運びたかった。そのためには松本の5-3-2ブロックの2(FW)の背後を使いたかった。
ビルドアップの形を三角形から四角形に変えたマリノスは、後半頭こそ松本式山賊プレスの餌食になりかけると、徐々にポゼッションを回復。DF&ボランチで鳥かごの状態を作り、少しずつボールを前進させていった。松本の前線プレス部隊の疲労もあり、とりあえずソリボールのリスク軽減に成功した。
もう1つは崩しの起点を中央からサイドに移してテル&渓太のWGコンビを活用したい、という意図。守備はソリボールリスクを軽減したからいいとはいえ、攻撃はなかなか苦しい。なにせ松本の3センターがマメに中盤をケアしているからだ。
第2レイヤーまでは運べても、第3レイヤーの中央部は使えない。特に後半は時間の経過とともに2トップ中心に松本の運動量が低下(そりゃ前半あんだけ頑張れば脚に来るわな)。ますます「ゴールへの最短距離を潰してマリノスの攻撃を迂回させる」ための中央固めの意識が高まっていた。
「中央でボール受けて反転しないと不機嫌になっちゃうおじさん」の私としては歯がゆい展開だったが、ボスはここで「別に中央にこだわらんでもええやん」と攻めの起点をサイドに移した。サイドに張ったWGにボールをつけて、そこからSBやトップ下に入った山田康太、ボランチ天野純がハーフスペースを爆撃する格好をとったのだ。
この時WGがWBとの1対1をやれるようになったのは、中盤の選手だけの功績ではない。裏抜けの動きを繰り返してCB2枚を釘付けにしたエジガルも実は影の立役者だったりする。しかもエジは、ボールロストが起きた瞬間に攻撃から守備に意識を即刻切り替え、必ず1人分のパスコースを消しながらプレスにいく。こうすることで松本のボールホルダーを「間近の選手は繋げない→ロングボール蹴飛ばすか?それとも横パス入れていったん攻撃遅らせるか?」と思わせることに成功、最大の恐怖だったカウンターのリスクを陰ながら低減してくれていた。
雨降って地固まる、ボスキレてビルドアップ固まる。チーム全体でリスクを軽減しつつ執拗なサイド爆撃を繰り返したマリノス。ボスは満を持して背番号7を呼んだ。
Q4. 泥まみれのお兄さんはお好きですか?
まずはこの写真群をご覧いただきたい。
かつては写真集も出すくらいのお兄系イケメンが、見てくれを気にせずユニフォームを泥まみれにして戦う姿。大津祐樹の魅力がこれでもかと凝縮されていると思いませんか奥さん!そりゃオレだってこんな妄言吐きますよ!
とまあ、イケメン談義は置いといて。このゲームでの大津祐樹ことおーつパイセン、いやさおーつアニキの出場時間は後半アディショナルタイム含め30分くらい。だが果たした役割はとてつもなく大きい。「監督の意図を汲み取り、それを100%達成する」という点が見事に完遂できたからだ。
先述のとおり、マリノスは攻めの起点を中央ではなくサイドに移し、ハーフスペースを狙って爆撃し始めた。こうなってくると、もともとサイドをゴリゴリ仕掛けるドリブラーとして鳴らした「IHながらWGの局面打開も持ち合わせる」おーつアニキの出番だ。
縦横無尽に動き回るおーつアニキにより、サイドのローテーションがさらに活性化。松本からすると目まぐるしくマークの対象が移り変わることに。スタンドから見ているとなかなか中央が使えずもどかしい「我慢くらべ(by喜田名人)」の展開にも思えたが、均衡を破ったのはこうしたサイドのローテーションからだった。
スペース>人でマークについていたはずの松本を、人基準での守備に変えて使いたいスペースをこじ開ける。そのこじ開けるためのスピード、相手DFを千切るフィジカル、最後にパスまで持っていけるくらい無理がきく身体の柔軟性、、、自身の持ち味が活きる展開の中で、きっちり持ち味を活かしきるおーつアニキ。惚れてまうやろ。。。
その後も前プレに積極的に参加しながら、ロングボールによるカウンターのリスクを軽減したおーつアニキ。「動きすぎる」「サイドに流れすぎる」などの評価も受けていたが、彼を中盤に置けば、局面打開能力を持つWGを3枚抱えたも同然。中央を固められてロングカウンターという課題への処方箋であるハーフスペース爆撃、その急先鋒はもしかしたらおーつアニキなのかもしれない。
また、フィニッシュを決めたエジの個人技も見事だった。DFを腕で抑えながらボールを自分の体の中心に持って奪われにくい状態にし、そのまま反転してシュート。アグエロかよ。
前述のようなピン留めと90分絶えないチェイシング、それらを重ねながらリーグトップとなる8ゴールを決めているエジも、クリリンに負けず劣らずの「チート助っ人」と言っていい。
おわりに〜天王山前の課題洗い出し〜
このように、対策を敷いてきた松本を辛くも上回ったマリノス。「面白い」とか「攻撃的」といった賞賛の声の中に、「強い」というワードもちょくちょく見かけるようになりました。
ですが、前半ロングカウンターに苦しんだこと、さらには最後まで中盤センターを崩しきれず、結局おーつアニキとエジの個人技で奪ったゴールとも言える決勝点だったので、改善すべき点はまだまだ多いと思います。
次節(というか今日だけど!)は同じくブロックからのロングカウンターを得意とするFC東京。ロングボールのターゲット、カウンターの急先鋒は去年のトラウマ、ディエゴ・オリヴェイラです。蹴られたあとの回収にも気を配りつつ、どれほどロングボールの供給元にプレッシャーをかけられるか。そして今度こそブロックを崩せるか。首位決戦というところを除いても注目ポイント目白押しのカードです。今期のマリノスが本当に強いのか、そして清水戦や松本戦で出た課題を解決できているのかを図るには絶好の試金石。勝って高らかに優勝争いに名乗りを上げたいものです。
それではみなさま、味スタでお会いしましょう。