ぼくらの なまえはたかときだ
このよで いちばん すきなのは
げーむをしはいしてかつこと
たか きだ たか きだ
どうも、「磐田のロドリゲスが歳下という事実がいまだに受け入れられない」系マリサポのお市です。本来神戸戦、磐田戦のレビュー(あと湘南戦も)を書くべきところでしょうが、今回は特別編ということで、パス分析記事をこしらえました。
磐田戦、神戸戦の特定の選手のパスを集計し、その結果から見えたことを色々書いていこうというものですが、その対象になるのはこの2人。
キャプテンコンビの扇原貴宏と喜田拓也です。
いやそこマルコスじゃないんかい!とツッコミを受けそうですが、この2人です。この背番号6と背番号8の凸凹コンビこそ、2戦合計8ゴールの連勝劇を演出したんじゃないかと私は思ってます。そんな彼らの貢献度を、パスの観点から振り返ってみようというのが今回の試みです。
なお、パスの本数を数えるのはSPLYZA Teamsを利用し、パス分析の図解は分析のパイオニアであるpolestar(@lovefootball216)さんに作成していただきました。この場を借りてお礼申し上げます。
それではパス分析記事、はっじまーるよー
目次
0. 言葉の定義
その前に、この記事で使う単語を改めて定義しておきたい。
「また堅苦しい話だなオイ」と読み飛ばすと何が何やらだと思うので、少々お付き合いを。
パスの種類
今回はパスの種類を3種に分けた。
- 横パスやバックパスなどの「つなぎのパス」
- みんな大好き縦パスやサイドチェンジなどの「縦パス・展開のパス」
- 相手DFライン裏に蹴り込む、夢と浪漫に溢れる「裏へのパス」
2個目と3個目はゴールに直結しやすいため、これらの数値が多ければ多いほどスタンドの「縦に出せおじさん」「攻めろおじさん」は狂喜乱舞するだろう。
レイヤー
コスプレイヤーの略ではない。断じて。
こちらがボールを持った時にできる相手の守備陣形の隙間、いわゆる「ライン間」のことを、今回は「レイヤー(layer)」と呼ぶ。レイヤーは計4つ。
- 相手のFWの手前「第1レイヤー」
- 相手FWとMFの間「第2レイヤー」
- 相手MFとDFの間「第3レイヤー」
- 相手DFの裏「第4レイヤー」
図にするとこんな感じ。
例えば、相手FW前から同MF前へのパスは「第1レイヤーから第2レイヤーへのパス」となる。詳しくはレイヤー理論の提唱者であるせんだいしろーさんのブログをご参照のこと。
エリア
「どこからパスを出したのか(From)」「どこへパスを出したのか(To)」を定義するために、polestarさん式に則ってピッチを縦5×横6に分割して、自陣から番号を振った。
図にするとこんな感じ。
例えば飯倉氏が自陣ゴール前からタッチライン際のジョグを飲みに行こうとする場合は、「エリア3からエリア15に移動」となる。
だいたいこんな塩梅の考え方を用いて、パスを一つ一つ集計・分析した。
1.集計結果
さ、お待たせしました。2試合のパスの結果をまとめた結果を並べていきます。
まずはパスの本数とパス成功率、それとパスの種別ごとの割合を。(SofaScore.comの数値と違うけどその辺は人力の限界ということでご容赦を。。。)
パス成功率を見ると、2選手とも2試合9割超えとかなり高い数値を記録している。また毎試合3割近く縦パスやサイドへの斜めのパス(展開・縦パス)を記録している。その中で高いパス成功率を維持できているあたり、かなりいい数字ではないだろうか。
お次はレイヤーごとのパス本数。数字はパスを試みた回数、()内は失敗したパスの本数。
神戸戦のタカの気合いの入りっぷりを示すかのようなレイヤー越境縦パスも目を引くが、概ね2戦とも第1レイヤー&第2レイヤー付近、つまり相手のFW付近でのパスが多いことに気づく。また、前方へのパスだけでなく、後方へのバックパスや横パスも結構多い。「縦に出せ」おじさんもしょんぼりかもしれないが、意外と多い。
最後に出した時のエリア(From)と
出した先のエリア(To)。
基本ボランチらしい位置からパスを供給しているが、サイドからも出している。出す先はかなり多岐に渡るがサイドのタッチライン際へのパスが多い。また、第1レイヤーと第2レイヤー間でのパス本数の多さを裏付けるように、自陣の深い位置にもパスしている。
「つなぎのパスが多い」「相手FWの近くでのパスが多い」「自陣深くやサイドのタッチライン際へのパスが多い」これらの集計結果から喜田&タカが果たした役割を考えてみる。
2. 連携サーキュレーション
このタイトルだけ見て「ここから濃厚な化物語トークが始まる!」と色めきたった方、申し訳ございません。最後までサッカーの話が続きます。
ドイツの新興クラブ、ホッフェンハイム。
その指揮官であるダウンベスト大好きお兄ちゃん若き知将ユリアン・ナーゲルスマンは、そのチームのメンバーにしかわからない共通言語を作るらしい。そんないわゆる「ナーゲルスマン語」の中の1つに、「サーキュレート」という単語がある。
3バックとアンカーが後方でパスを回し、正しい攻撃のパスコースを見つけるまで前方にパスを出さない。これをナーゲルスマンは『サーキュレート』(Zirkulieren)と呼んでいる。偶然に頼るのを避けるのだ。(footballistaより)
喜田&タカが2試合とも繰り返した、相手FWの背後「第2レイヤー」から自陣に戻すパスはこの「サーキュレート」の意図が強いのではないかと思う。
では正しい攻撃のパスコースというが、正しくないパスコースとは何か?その一つは簡単にカットされそうなボールの運び方だろう。だいたい以下みたいな運び方はカットされやすい。
相手からすると、縦のボランチへのコースを切りながら横にスライドしさえすればいいので、最終的にSBに行き着くことは予想しやすい。中央を切られながらサイドのタッチライン際までいけば、あとはWGへの縦パス以外はない。なのでそこに狙いを絞ればパスカットはできてしまう。
これを避けるために、ちょこちょこボランチが受けにいって、「横→横→横…」というパスの流れを変える1つの手段が「サーキュレート」だ。一回ボランチへのパスを挟むことで、相手のボランチを動かしたり、フリーの味方を作りやすくなる。(図はすごく極端な例だけど)
「でも実際コレまどろっこしくね?縦のパスコースが見えたら速攻縦入れた方が楽じゃない?」というのもわかる。けれど、こうしてかけた時間は、味方が周りを見てポジションを微調整する時間にもなる。時間を少しかければ、「もし今ボールを失ったら、このスペースはカウンターで狙われるんじゃないか」などカウンター予防も考えられる。攻守に効果的なポジショニングをしやすくなるメリットも見込めるわけだ。
さらにこのパス回しを繰り返すことで、相手選手が動く。相手が動くとその分スペースやパスコースが生まれる。そうしてできたスペースと時間で、選手たちは自分の長所を活かしやすくなっていく。
3. 個人の質は活かし活かされあう〜中盤から始まる好循環〜
それでは具体的に誰のどういう部分が活きてくるのか。
まずマリノスが誇る3Jr.の1人、マルコス・ジュニオールa.k.a.クリリンが相手のMFライン付近で浮く。(これ見よがしに選手とのツーショットを貼ってマウンティングしていくスタイル)
上の図で示したように喜田&タカがDFとパス交換をすると、相手のボランチも彼らにプレッシャーをかけるべく釣り出される。そうなると単純にクリリンのマークが薄くなったり、彼の周りにスペースができる。
ボールテクニックに長け、パスのアイディアも豊富なクリリンが空くと、こうなったり。(サーキュレートはあんまり関係ないけど)
こうなったりする(磐田戦じゃないけど)。
だが、クリリンがいくらフリーになっても、彼へボールを出すためのパスコースがないと意味がない。そこでもう1つの狙いは、高精度のパスを出せる選手に余裕をもたらすこと。
無論喜田&タカもクリリンへ多くパスを出しているが、マリノスのパサーは中盤だけにあらず。▽から△に中盤の形を変えたと同時に起用されたティーラトンa.k.a.ブンちゃんと、もはや日本随一のチャラい繋げるCBとして名を上げた畠中しんちゃん。この2人は、「サーキュレート」によって余裕を持ってパスを出せるようになっている。
パスの受け手として優秀なクリリン、出し手として非凡な能力を誇るブンちゃんしんちゃん。彼らのスキルがフル活用できれば、他の選手たちも自然と活きてくる。
例えば突如覚醒したかのように言われがちな遠藤渓太は、ブンちゃんとの相乗効果で自分の持ち味を出しやすくなったように見える。
ブンちゃんがプレッシャーをかわしつつ高精度のパスを出してくれるので、「高い位置・1対1・カラダノムキもいい」という好条件でドリブルを仕掛けられるようになったのだ。
こうしたブンちゃんとの連携により、今シーズン誰よりも愚直にタッチライン際で幅を保ち、誰よりも愚直に低弾道高速クロスの質と頻度をあげようと挑んだ渓太はよりそのトライに専念できるようになった。
また、クリリンを警戒して相手が中央に寄ったら、サイドのスペースを仲川テルやワー坊こと和田拓也が使い始める。カットインでも脅威を与えられるテルが右ハーフスペースに入ると、相手のサイドバックは彼をケアすべく大外のレーンを捨てる。そんな相手の思考を読んで大外の高い位置を狙うのが、「実は仙台FW石原直樹だけでなく札幌の杉浦通訳にも似てるのでは」な和田拓也。味方や相手との相関関係で最良のポジショニングを叩き出す賢さは、彼の専売特許なのかもしれない。わー坊はかしこいフレンズなんだね!すっごーい!
大外にフリーの選手がいると、今までベールに隠されていた(当人はそんな気ないかもだけど)最後尾の秘密兵器が唸りをあげる。そう、「中長距離レイヤー間弾道ミサイルPG1」ことパギのロングフィードだ。
パントを使わないでも結構高精度なボールを届けられるパギによってサイドも活きてくると、相手としては「クリリンだけ気にして中を締めておこう」と割り切るのも難しくなる。中・外どちらも
互いの長所を活かしあう好循環。その起点は、一見すると地道なつなぎのパスを繰り返しながら、最良の攻撃ルートを模索する喜田&タカのキャプテンコンビかもしれない。
おわりに
この記事の締めくくりに、本当は「今後も喜田&扇原コンビの確実な貢献に期待です!」と書きたかったんですが、湘南戦の前半途中でタカは大怪我を負ってしまいました。
右膝内側側副靭帯損傷、全治6週間見込み。
まさにこれから猛威を振るわんとしていただけにとても痛手ではあるし、何より本人がもっとも悔しいと思います。目元を腕で隠しながら担架で運ばれていった姿は、彼の無念を物語るようでした。
その代役に指名されたのが、これまたキャプテンのAJこと天野純。トップ下にマルコスが君臨する今、ポジションを追われた彼ですが、(コメント読む限りは渋々ながら)湘南戦ではボランチとしての責務を全うします。
タッチダウンパスや守備時のフィジカルはタカに軍配が上がるかもしれませんが、ボールを受けた後の反転技術や相手陣形を俯瞰で見ながらボール回しの中心になれるのはAJの強み。さらに湘南戦で迎えた決定機を沈められれば、また違った怖さを出せるはずです。
「マルコス・システム」と名高いマリノスの新機軸。その新しい武器が、リーグ戦3連勝が、本物であることを証明するためにも、代表ウィーク開けの試合は重要です。手堅い清水や松本、さらには圧倒的首位の東京を下していく必要があります。その時、まばゆい輝きを放つクリリンだけでなく、渋く光る中盤を支えるキャプテン三銃士にも要注目です。
<この項・了>
(記事内の写真は一部を除いてマリノス公式マッチレポートから拝借)