
ルヴァンはフランス語で「発酵種」の意味があるそうなので、それと今のマリノスのやっと熟成されてきた感をかけて…と思ったら内Pにたどり着いた。どうしてこうなった。
内Pの話はTwitterなどでするとして、マリノスの話を。
難敵鹿島を乗り越えたマリノスは、ルヴァン杯決勝まで駒を進めることになった。
ファイナリストになり、タイトル獲得までもう一歩。今までの試行錯誤がやっと形になるかもしれない、と思うと感慨深い。あれほど(豆腐メンタルな私の気も知らずに)「守備崩壊だ!内紛だ!降格だ!」とやいのやいの言っていたマスコミの声も、各方面からの賞賛がかき消しつつある。
だけど、ファイナリストの称号や、色んな方面からの賞賛と同等かそれ以上に、ピッチで起きたいくつかの出来事も嬉しかった。タイトル通り発酵し「収穫」と呼べる部分もあれば、まだ未熟で「課題」として向き合わなければいけない部分も発見できた。
仙台や札幌のようにスタイルが確立されたチームとの試合は面白い。ただ、鹿島のようなプレーの引き出しが多く、相手の嫌がることを何でもやるチームとの試合は発見が多い。相手の穴が見つかればそこを確実に突く。そのためのタレントもいて、十分練度も高い。
今回はそうしたゲームの中での発見を書き連ねていこうと思…ってたんだが、課題の部分を書いてたら思いの外長くなったので、この記事ではその課題に焦点を当てていきたい。
課題というのは、みんな大好きビルドアップのことだ。
目次
マンマークと自陣からのビルドアップ
課題が最も顕著に現れたのは、2ndレグの後半だった。
特にマリサポの多くが頭を抱えたのが、「トラウマベストイレブン殿堂入り」の1人こと土居に叩き込まれた1失点目かと思う。
飯倉のリスタートが拾われたこのゴールを「飯倉のやらかし」とする見方は多かった。まあ、飯倉に全く非は無いわけではないし、飯倉本人も「ミスして流れが変わったのは、俺の責任」とコメントしている。
だが一方で、チームとしての課題とする見方もあった。というのも、リスタート時の状況が厳しかったからだ。
ほとんどのマリノスの選手が、鹿島の選手と1対1の状態になっていたのだ。
今季のマリノスは、GK、DFを出発点として、自陣からショートパスを繋ぎつつ、チーム全体とボールを同時に前進させていく。
今回で言えば、飯倉が出発点なのだが、その次のコースがことごとく塞がれているような状況だ。
鹿島は、マリノスの特性と限られた時間でゴールを奪わなければいけない状況を理解した上で、このマンマークに踏み切った。このやり方だとマリノスの選手を潰しに行くのはやりやすい。いわゆる「前からハメる」がやりやすい状況だ。
けれどその分、中盤とDFの間、またはDFの背後にスペースが生まれる。DFが上がらなければ前がかりの中盤と間が空いて前者、DFも上がればマリサポからすれば見覚えのある後者のスペースが生まれる、ハイリスク・ハイリターンの策だった。
結論から言うと、鹿島の策はハマった。出しどころに困った飯倉は、近くに寄ってきたAJにパス、それを「そろそろ養育費くれたっていいんじゃないか」でお馴染みの土居にかっさらわれ失点してしまう。マンマークで前からハメられてしまった時の打開策が、いまのマリノスには浸透していないのでは、という課題を覗かせるシーンだった。
だが、我々の想像以上にマリノスは無策ではなかったのでは、とも思う。(なんか自己矛盾してるけど)
注目したいのが、「AJは本当にボールを受けに下がったのか」という点だ。
巻き戻してみると、AJが下がると同時に、土居がTakaのマークを放棄している(というよりレオ・シルバに任せている)のがわかる。
これがAJが受けに下がる前。
これがAJが受けに下がった後。パスを受ける直前。
つまり、AJはパスを受けに行ったわけではなく、土居のマークをTakaから引き剥がすために「いかにもボールを受けに行ってるかのように」下がったのではないだろうか。
その証拠に、Taka自身もそれを理解した上でボールを要求している。レオシルバはAJ&Takaの仕掛けに気づいたらしく、急旋回してTakaへ接近していた。だが若干距離があるため、飯倉のパススピードをもってすれば、Takaはレオシルバのプレッシャーを受ける前に反転できたと思う。あとは飯倉がそこに気付いていれば、失点を避けるどころかボールを前進し、前がかりな鹿島の裏を突けたかもしれない。
「やっぱり飯倉が悪いんやないけ!」という単純な話でもない。リスタートを急がなければ遅延行為として警告を受ける。(磐田戦でドゥレ和尚が受けた2枚目のイエローを思い出していただきたい)それを気にしてか、飯倉は割と急ぎ気味にAJにパスを出している。
余裕があれば、飯倉も配球先を間違えずに出せただろう。現にこのシーンの数分前、同じように周りの選手がマンマークにつかれた中でも、飯倉はほんのわずかの隙を突いてTakaに縦パスを供給していた。
ここから、飯倉はプレッシャーがかかってもパスが出せる能力があり、受け手となるチームとしても、そのパスを引き出す仕組み作りができていることがわかる。
だが、そのプレッシャーが連続すると、リスタートの早さや受け手の準備状況(主に位置とカラダノムキ)によっては、このようにさらわれるシーンがある。
これがマリノスの現在地点なのかもしれない。
このようにGKやDFからのパス出しは、練習から強いプレッシャーをかけつつ、さらに熟成させていくべきポイントだと考える。
ロングボールは絶対悪か

しつこいがまだ土居ゴールのシーンについてお話ししたい。
辺り一面がマークされきっている場合、こんな意見もある。
「ロングキックで直接相手DFの裏を狙えば?」
「四の五の言わずに蹴っ飛ばしときゃよかったんだよ」と。
たしかボスはあんまり好まないかもだけど、手としてはあるし、繋いだところを狙われているなら、みすみすその狙い通り繋いだりせず蹴飛ばせばいいのかもしれない。一見すると理に適っている。
前者はたしかに一つの対応策として有効だろう。マリノスの属するCFG(シティ・フットボール・グループ)の大親分、ペップシティも同じ手段をとったケースがある。
もっと言うと、我らが飯倉とウーゴのコンビも(どさくさに紛れた感じはあれど)長めのパスで相手DFラインの裏をついている。一番上手く行った例はこれか。
理想論にはなるし、飯倉がリスタートを急かされていたことを考えると実現可能性は低いだろうけど、今回の土居ゴールのシーンも、ロングキックを狙えた。
以下はJリーグがルヴァン準決勝に向けて用意したライブトラッキングで捉えた土居ゴール一歩手前の瞬間。
図だけを見ると、7番ウーゴ兄さん、11番渓太はDFと1対1の状況。両者ともにDFの裏のスペースを突くスピードを持ち合わせる。なので、左か中央へ向けてロングキックを一本入れるのも有効だ。
ただ注意したいのは、ロングボールを入れた後は、自分たちがボールを保持できるとは限らない、ということだ。仮にウーゴ兄さんや渓太がボールを収めきれないor奪われたとすると、対面のDFにボールを奪われてしまう。そうすると、彼らの背後(ボールを奪った相手が使うだろうスペース)を誰かが埋めないといけない。その後処理の候補として真っ先に上がり得るのが、前線に近いインサイドハーフの2人、14番AJと5番喜田プロだ。彼らが背後のスペースを消していれば、ロングボールを入れても安心できる。
だが先述のとおり、AJはこの後Takaを経由して右に展開するルートを考え、ゴール前まで降りている。すると、渓太へのロングボールが相手に奪われたとき、対応するのは山ちゃんになる。で、山ちゃんが食いつくとその横にいる25番遠藤やすし師匠はフリーになる。そこに通されればまたピンチだ。ピンチを回避するためのロングボールが、奪われた後を考えないだけでまたピンチの火種になる。困るでしかし。
またウーゴ兄さんのところも難しい。喜田プロは近くにいるが,、その分CBの28番町田ら相手選手も近い。仮にウーゴ兄さんに渡る前に、39番犬飼がヘッドでクリア、混雑している部分にボールが入れば、マリノスがボールを確保できるかは五分五分である。
先ほどの2つの意見のうちの後者、「四の五の言わずに蹴っ飛ばせ」という考え方は、リスク回避をしているように見えがちだ。しかし、こうして「もし奪われたら」と考えると、相手にセカンドボールを回収され、攻撃され続けるリスクを招いているともいえる。ボスがロングボールを嫌うのも、そうしたリスクを考慮してのことだろう。
先ほど挙げたシティのエデルソン→アグエロのゴールも、一見2人のバケモノによる所業に見える(いやまあ、あの2人実際バケモノですけど)。だが、他の選手たちの位置も無視できない要素だった。相手と1対1の状態じゃなければ、アグエロの横にはもう1人DFがいたかもしれない(相手のハダースフィールドは4バックだったから、CBは2人いる)。相手のマンマークを理解した上でやらないと成立しないプレーだった。
また、前線の選手が「お、俺もエデルソンパイセンのボール受けたいっす!」とアグエロに近づいていたら、その選手をマークしてる相手DFを引き連れてきてしまう。こうするとアグエロは1対1じゃなく、多対多の状況になってしまい、動画のようなスムーズな展開にはならなかったかもしれない。
つまり、他の選手の位置も含めて、整備された上でのプレーだったからこそ、ゴールという結果がついてきたのだ。
そうすると、鹿島戦のマンマーク状態がまた来た時、マリノスもこうした変態アタック(褒めてます)が出来るといいなあ、と能天気に思ったりする。先に触れた去年の天皇杯広島戦のウーゴールとか、今年のルヴァン鹿島戦1stレグのFK奪取につながった攻撃とかは、やや相手がバタバタしている状態での出来事だった。けれど、相手がバタついていなくても、こういうわずかな隙を、様々な手段で突けるチームになれたら、と強く思う。…まあ、J1にハダースフィールドみたいな守り方をするチームはない気がするけど。
なんか長くなってきたので、ロングボールについての考察まとめ!
- ロングボールそれ自体は悪じゃないし、大親分のシティは上手く活用している
- けれど奪われた後のことを考えないと、リスクがつきまとうので避けたい
- マリノスでもエデルソン→アグエロならぬ飯倉→ウーゴ見たいな
まだ何も勝ち得ていない。けど…
今回はビルドアップ、ボールと自分たちの位置を押し上げる上での課題点に絞って書いてみたが、ルヴァン鹿島戦2戦では、アウェイでのリーグ戦の時よりも充実したサイド起点の攻めなど、収穫もたくさんあった。(これもどこかで触れたい)ただ華やかなだけでなく、結果が伴うようになってきたし、勝ち星を栄養にしてチームや選手個人の士気も上がってきている。そしてルヴァンに関して言えば、「ファイナリスト」になった。
だが、これでマリノスのサッカーが完成したわけではない。失点ゼロの試合はなかなか出来ないし、圧倒的に押したのにその後疲れてピンチを迎える傾向は否めない。そして何より、リーグ戦はまだ10位で降格の危機だって逃れていない(だから今年のリーグはおかしいんですって)。ルヴァンだってまだ獲っていない。課題は今回問題視したビルドアップの部分だけじゃない。コーナーキックからのゴールが無かったり、反対にセットプレーから失点したり、修正すべき点はまだまだある。
けど、こうも考えられる。「チームの成長過程に、我々サポーターは居合わせている」と。マリノスが「古豪」から「強豪」に脱皮する、その過程を見ていると思えば、とんでもなくクールでとんでもなく勝ちまくる完成形がやってくると思えば、サッカーファンとしてかなり幸せなんじゃないだろうか。未完成だからこその楽しさもあるはずだ。
では未完成のチームが完成するために必要なのは何かといえば、やはり「自信」だろう。自分たちのやり方を信頼すればこそ、更なるレベルアップも計れる。批判的に捉えるのも大事だが、疑い過ぎると磨き上げるもとになるチームの原型を見失う。更なるレベルアップのために、自分たちのやり方を信頼して、「これをするともっとよくなるなじゃないか」「こっちも試せるんじゃないか」と試行錯誤しながら局面を打開する。その様子こそまさに「勇猛果敢」なんじゃないだろうか。
自信を持つためには、目に見える結果が必要だ。残留できるかヒヤヒヤの位置から抜け出すこと、そしてルヴァンを獲ること。この2つは確実にチームが成長する上での栄養分となる。
だからこそ、決勝戦を含むここからの試合は、どんな形であれ支えていきたい。
そして、「俺らを叩いてたやつざまぁwww」とかではなく、長いチームの成長過程における、1つの区切りとして、今シーズンを笑って終えたいと思う。
–––伊丹空港のロビーより(学術書の末尾にありがちな飛び回ってますアピール風)