【とびだせ】YBCルヴァンカップ プレーオフステージ vs神戸【うらぬけの森】

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生きていると、色々「やるせないこと」「理不尽なこと」に出くわします。
「建ててくれ」と言ったわけでもない家のローンを背負わされたり、
やっと完済したと思ったらまた別のローンを組まされたり、
その搾取されたお金で債権者の建物がどんどん豪勢になっていったり・・・。
tanuki_suckそんな日々の「やるせないこと」「理不尽なこと」を忘れる手段として、救いを求めるようにしてスタジアムへ足を運ぶわけです。サッカーヲタクにとっては、贔屓クラブの勝利が、贔屓選手の活躍が、何よりの処方箋ですから。

しかし困ったことに、救いを求めて訪れたスタジアムでも「やるせないこと」「理不尽なこと」に出くわします。

その中でも最もキツイものの1つに、
「ゲームを支配している中で食らうセットプレーからの失点」は絶対含まれると思います。

セットプレーは、試合展開に左右されにくい代物です。(完全にされないってことはないと思うけども)
いくら愛するクラブが攻めまくっていても、文字通り一発でスコアを動かされます。
引いた眼でちゃんと分析すれば、「この時の誰それの動きが秀逸で・・・」とか色々言えるのでしょう。けれど、贔屓クラブの失点、しかもスタジアムの高さの無い視点で観てたら、話は別です。
「あああああああもおおおおおお!!!なんなんだよおおおおおお!!!」としか言えないわけです。

そんなセットプレーによる2失点があったにも関わらず、この神戸戦において悲観は不要でした。なぜなら、裏抜けを中心とした崩しが機能していたためです。先制されても、2-2のタイスコアに持ち込まれても、そのうち点は取れると思っていました。

ってことで、その楽観的な視点の理由となった以下の2点について、つらつら書いていこうと思います。

  1. 神戸のハイラインとミステリーな大津祐樹
  2. アウェイでの2ndレグに向けた反省点

いつものようにグダグダな感じですが、皆さまの議論のたたき台になれば幸いです。

1.神戸のハイラインとミステリーな大津祐樹

大津ちゃん、わいは信じとったで!(素早い手のひらのトランジション)

今まで「ピッチで行方不明になる」「気づけばサイドに流れている」などなど、サッカーIQの高いマリサポから非難ごうごうだった大津祐樹(以下、大津パイセン)ですが、1stレグでは値千金の同点弾をねじ込む活躍を見せてくれました。
ではなぜ彼は1stレグで活躍できたのかについて書いていきます。

理由1.DFライン裏のハーフスペースを突く動き

なんといってもこの試合の分水嶺になったのが、「ハーフスペース」と呼ばれるサイドバックとセンターバックの間のスペースかと思います。(別の定義もあるようですが、今回は便宜上↑の定義づけで話をします)

もっと言うと、神戸DFライン裏のハーフスペースをウチが上手く使えたことが、前半の攻勢に繋がっていたかなと。
ハーフスペースの掌握がなぜ攻勢に繋がったのか、そしてなぜ大津パイセンの話に繋がるのかをお話する前に、「なぜ神戸のハーフスペースが空いたのか」について説明いたします。
(訳:戦前のオレの予想ちょっと当たったの超嬉しいんで聞いてください)

なぜ札幌のハーフスペースは空いたのか

まずはこのゲームの前にあった、神戸対札幌の試合から紐解いていきます。
この時の神戸は、札幌好調の要因である右サイド、三好と駒井のキレキレアタッカーコンビをどうにか押さえる必要がありました。その上で神戸は4バックを横幅目一杯に広げて「1人1殺」なマンツーマンを展開する作戦に出ました。
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この作戦を遂行する上でのキーマンが、ティーラトンと高橋峻希のSB2枚でした。
左SBのティーラトンは自陣からのビルドアップの時、タッチライン際まで広がってCBがボールを出せるようにしつつ、受けたあとは中長距離のパスで「田中順也」ことTJや、「優しいターミネーター」「賢いクレーン車」ことウェリントンへパスを供給し攻撃の起点になりました。
守っては駒井とのマッチアップに勝利し、札幌のサイドアタックを減退させることに成功。攻守に高い貢献度を見せました。
このティーラトンの動きにより、札幌の前からのプレスはハマりにくくなり、かつウェリボールによって三好&駒井が下がらざるを得ない状況を作られたというわけです。
一方で右サイドの高橋峻希ですが、彼のタスクはもっぱらチャナティップのケア。こちらはティーラトンほど攻撃面での貢献は無かったものの、三好と並んで札幌の攻撃を牽引する「タイのメッシ」「嫁が美人」でおなじみのチャナティップを完璧に試合から消した守備対応は見事でした。
また、彼がサイドの高い位置でWGの大槻周平と挟んでボール奪取することで、そこから速いカウンターを発動させたり、CBを経由して逆サイドのティーラトンへ渡して中長距離のパスを出させる…というケースもあったので、高橋峻希はサイド起点での攻守の切り替えのキーマンだったといえます。

神戸vs札幌の話が長くなってしまったので、そろそろマリノスの話に戻ります。
そんなティーラトン&高橋峻希のSBコンビは、サイド中心、クロス多めのマリノスの肝であるウィンガーを潰すべく、そして潰した後ビルドアップをスムーズに行ってティーラトン起点で攻撃に移行するべく、このマリノス戦でも幅を広げてきました。
ありていに言えば、札幌戦と同じ狙いだったのかなと思っています。
その布陣を敷いただけあってマリノスのウィンガーからのクロスは少なく、特にオリバーはなかなか高橋峻希を抜けなかった印象です。
図にするとこんな感じでしょうか。

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ですが、このやり方では抑えが効かないポイントが出てきます。それが黄色円で示したハーフスペースです。
マリノスはモンバエルツ政権下の頃から口酸っぱく「ウィンガーは目一杯広がれ」という指示のもと動いていますが、その指示の理由の1つに、黄色円のようなハーフスペースの確保が挙げられます。

このハーフスペースを開けているとDF側として何が厄介かと言うと、
「ハーフスペースに入ってきた相手選手の面倒を見るべきはCBかSBか」という問題が発生すること、これが大きいと私は思うのです。
特にここで迷うのがSBです。
大外を走るウィンガーを捕まえるべきか、ハーフスペースを走る別の選手を捕まえるべきかがすごく悩ましい。
神戸の1stレグのマリノスは、「いつも通り」ウィングを張らせたところ、神戸の意図も相まって広々としたハーフスペースを獲得、うまいこと神戸のSBをこの悩ましい状況に追いやることに成功したわけです。

ハーフスペースと大津パイセン

ハーフスペースと大津パイセン段々話がまとまってきました!
で、1stレグのマリノスはこのハーフスペースをどんどん活用し、相手SBの頭痛の種を作り続けたわけせですが、前半その役割を担ったのが、他ならぬ大津パイセンでした。
大津パイセンはウーゴ兄さんと異なり、元々FWではないためか、DFラインを押し下げるポジショニングはあんまりやってくれませんでした。
ただその代わり、中央に留まることなくハーフスペースに多く顔を出して相手DFラインの裏を取っており、マリノスの攻撃の糸口になっていました。
…という点を踏まえて、1ゴール目をもう一度ご覧ください。

(案外オリバーは大外張ってないな・・・けど高橋峻は釣ってますね)
ご覧の通り、高橋峻希はオリバーのケアを優先し、大津パイセンを「最近めっきりJで見なくなったスキンヘッド」北本久仁衛に任せました。が、「レフ板系DF」北本は大津パイセンに対処できずにさらりと裏抜けを許す格好になってしまいました。

では、なぜ北本(と渡部)は大津パイセンを捕捉しきれなかったのかというと、大津パイセンがオフサイドをスレスレで逃れたからだと思います。めっちゃざっくり書くとこんな感じです↓

このジョギングのペースからの急加速、ハーフスペースが空いたところにすかさず侵入する感覚は、誰もが持っているわけじゃないし、トレーニングを繰り返せばできるものでもないと思います。だからボスは大津パイセンをあきらめなかった。感覚的に過ぎるとはいえ、希少価値の高い選手だとみなして辛抱強く使い続けた。このゴールは、大津パイセンの頑張りとボスの辛抱が結実したゴールかと思います。

理由2.流動的なポジションチェンジ

ハーフスペース以外で1stレグの前半で目立ったのが、前線5枚(CF、WG、IH)の位置でした。図は前半17分、1点ビハインドの状態です。
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1枚目の図の状況を整理すると、
・山ちゃんからのボールを受けるためにオリバーが中へ絞る→IHの位置
・オリバーが抜けたスペースへ大津パイセンが入る→左WGの位置
・大津パイセンが空けたスペースへ突進するプリンス→CFの位置へ向かう途中
と偶発的ではありますが、3人のポジションが変わっていますね。
そして最終的にはCFのスペースを狙ったプリンスが仕掛けにいっていますので、大津パイセンがCFのスペースを空けて、そこからゴールまで直進させる狙いがあったのかもしれません。

まだこういうシーンがありました。
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IH(というよりほとんどトップ下)の位置から仕掛けたオリバー、大津パイセンとワンツーしてダッシュ。入った先はCFの位置。このパターンでも大津パイセンが空けたスペースを他の選手が使おうとする動きが出来ています。
このシーン以外にもアマジュンとテルを含む前線5人が流動的にポジションを変更し、CFのスペースを狙っていました。
これらのチャレンジにより、今までのマリノスでは見られなかった、2列目からのIHの飛び出しや、サイドではなく中央でのオリバーの速いドリブルなどが出来るようになり、攻めのバリエーション増加に成功したわけです。
サイドからのクロスが主な攻撃の手法だったところに、中央突破も出来るようになったと。
物理攻撃に加えイオナズンを覚えた感じでしょうか(違う)
その増やした武器をもって決めたのが、2点目のテルのゴールです。
テルのゴールが決まる5秒ほど前、大津パイセンはTakaのボールを受けに下がります。
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ここで彼が空けたスペースが、最終的にはテルが突っ込む場所になりました。
(扇原のパスの強さや右足に出している辺りを見ると、大津パイセンに反転して欲しかったのでしょうが、そのメッセージをパスから読み解けずトラップミスしたのは内緒です)

無論このゴールはテルがキレッキレである証でもありますが、チームとして狙っていた(だろう)「降りたりサイドに流れた大津パイセンが空けたスペースを使う」が上手く点につながったシーンでもあります。

以上のようにハーフスペースの裏を的確に突いたり、ポジションチェンジの引き金となる動きを見せた大津パイセン。
「戦術理解とかはない分ポテンシャルで飯を食っている」と知人の柏サポに言われたり、マリノス移籍後も「大津はミステリーってポジショニングがミステリーってこと!?」だった彼ですが、ここに来てチームの原理原則を守り、その上で自分のスキルを活かそうとする姿勢が見られています。
移籍後初の流れの中でのゴールとなった同点弾(あと薬指へのキス)も良かったのですが、何より枠組の中でパイセンを活かせたこと、これがチームにとってインパクト大でしたね。

2. アウェイでの2ndレグの展望

さて、やっと2ndレグの話ですね・・・。

最終ラインがボールを持った時のポジショニング

1stレグ後の神戸の監督と選手のコメントを見てみると、共通するワードがありました。それが「プレス」(プレッシング)です。

吉田孝行監督「立ち上がり早い時間帯で先制するまでは良かったです。そこから勢いに乗って、どんどんプレスを掛けて行きたかったが、徐々に相手がプレスに慣れてきていました。神戸のプレスも緩くなってしまいました。後半の途中からはほぼ相手ペースになってしまって逆転された感じです。後半に入ってもっとプレッシングを強める事を話しました。後半はある程度チャンスができてきた中で同点に追いつきました。」

渡邉千真「全体が連動してプレスをかけないとボールを奪えない。今日は前から行こうとしたけど、もう少しマンツーマン気味でいっても良かったかなと思う。後ろ(の守備陣)と前(の攻撃陣)で連動できなかった。」

渡部博文「前回よりは捕まえられている。はまったシーンもありました。どうしても前から(プレスを)中途半端に行ってしまう時がありました。全員が行くとき、行かないときの判断が重要。」

ヴィッセル神戸公式サイトより抜粋

とにかくプレスのかけ方ダメだったよ、というのがチームの共通認識としてあるみたいです。

ただ、「監督2年目でイニエスタとポルディの面倒を見る男」吉田監督のコメントにもあるように、部分部分では神戸のプレスはハマっており、結構高い位置でボールを奪われることがありました。その中でも結構キツかったシーンが以下です。

GK + CB2枚 + アンカーでボールを回すシーン。
手詰まり気味だったので、インサイドハーフのプリンスが下がって、斜めのパスをもらうべく、マツケンがちょっと高めの位置に入ります。

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ややトラップが流れたのもあり、プリンスは自陣方向へドリブル、相手を何人かひきつけます。ただそこはプリンス、相手の隙間を射抜くように斜め前のマツケンへパス。

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が、パスを出したプリンスの体勢に無理があったか、パスが弱かったため下がって受けたマツケン。図らずもプリンスについていた相手を一人引きつれる格好になりましたし、何より引いて反転したため相手のSBに詰められてしまいました。

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この事態含め、神戸のプレスが「ハマった」時は、だいたい後ろ3枚(CB2枚+アンカー)で回している時であり、もっと言うと「2CB間に落ちた扇原に対して誰がチェックに行くかを神戸が決めた後」からこのような事態が散見されてきたと思っています。
もちろんマリノスの選手もその点は理解していて、この画像だと飯倉が上がってビルドアップに参加したり、プリンスが下がって助けに行ったりしています。ただ、そうやって各自が持ち場を離れていくと、必ずどこかが空くわけです。
3枚目の画像は結構手遅れなタイミングですが、このワンテンポ前に本来の位置でプリンスがいたら、もう少し楽だったと思います。ティーラトンに寄せられるより早く出せていれば、前へボールを動かせたかもしれません。
もう1つ言うと、被カウンターの観点でもこの手のシーンは避けたいところです。最終ラインの前でボールが入ったら、極力手早く前へ送るのがマリノスのサッカーの目指すところです。それは「なんでもいいからとにかく前へ攻めまくればゴールはとれる」というよりかは「カウンターを食らうリスクを低減するために自分たちのゴールからボールを遠ざける」というニュアンスのが近いかもしれません。
後ろで回しつつ、時にはいったんバックパスや横パスも入れるなどして、相手の隙を見つける、それが見つかった時には・・・

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いけええええええええええ!!!!

隙が見つかり次第サクサクとボールを回して前線へ送り届けるのが大事です。
そのためには、パスコース探しにあまり時間をかけすぎないこと、あまり悩まないこと。逆を言えば「迷わずともパスが出せる立ち位置」を心掛けながら動いていくことが肝要だ、ともいえます。

えーっと、つまり。。。

  • 相手はプレスを改善してやってくるハズ
  • 問題は後ろ3枚で回しているとき
  • 下がってフォローではなく、ポジションはなるべく維持

ってところでしょうか。
それこそ体の向きをあれこれ変えて、出しやすい状況を作ったり、もっと言うと「競った後ボールを拾って攻撃につなげられる目算がある」または「サイドがガラ空き」の時は臨機応変に長めのボールを入れるのも手だと思います。(現に1stレグ、プレスがきつくなった時に飯倉は意図的に多くロングキックを入れているように思えましたし)
パスの長さや方向を色々変えながら、チーム全体で崩していきたいですね。

 

おわりに

例によって最後駆け足になっちゃいましたが、気を付けるべきは他にも色々あります。ウェリントンへのボール(通称ウェリボール)はその1つですね。ただ、これについてはキチンと腰を据えて書きたいので、試合後に回します。
あとセットプレー守備も相変わらず注意ですね。。。特にファーのケアはどのチームも手を焼くポイントかなと思いますが、相手は良質なキッカーとターゲットを備えたチームですので、空いていても見逃してくれません。どう対策をしてきたか見ものです。

ルヴァンを勝ち進む上でも重要な一戦ですが、大津パイセンのように徐々にフィットしつつある選手、テルやプリンスのような台頭してきた選手が、どこまで噛み合っていけるかという意味でも大事な試金石となる試合です。良い結果をもたらす良い内容のサッカーを!スペース突きまくりで行きまっしょい!

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