「神奈川ダービー」と位置付けたこの試合の前に、我らがマリノスのフロントは観客動員増のため、様々な手を打ちました。その一つがこちら、川崎のお膝元とも言える、武蔵小杉駅の煽り広告です。
http://news.nicovideo.jp/watch/nw3388908
「様々な因縁のあるこのカードだから、ドラマ性の高いこのカードだから、ぜひ来てね!」という意味を内包した広告です。無論、最近スタジアムから足が遠のいていた人を喚起するにはちょうどいいと思うぶっ飛んだ試みだと思います。しかし、ほぼ毎年見ている私からすれば、
改めて言われなくてもわかっとるわい、と。
言われなくても忘れません。
3年前に「なんであんなクソサッカーに負けなきゃいけないんだよ!」と悔しがるミズイロと黒のサポ団体っぽいシャツを着た輩をよそに誇らしげに家路についたこと。
一昨年半べそになりながら新丸子周辺を歩いてたら近所のガキに煽られたこと。
去年の梅雨時に名前も知らないおじさんと抱き合って「ううううごおおお!」と叫んだこと。
そして、去年の中ごろ。
「チケットは俺が中立地帯のとこの用意するから!」とうそぶいた川崎サポのI君にそそのかされてホーム寄りの席での観戦を強いられ、一緒に来たサッカー初観戦の友達Mさんと3人で観ながら、周囲ガン無視なI君の代わりにサッカーのルールなどをMさんに説明し続け、挙句帰りに武蔵小杉のファミレスでI君の何一つ面白くない飲み会でのやらかし話を延々聞かされたこと。
何一つ忘れちゃいねえよ!(ちなみにI君は未だに許していません)
というわけで、個人的に因縁浅からぬカード、川崎戦。
前節の川崎対広島を見た感想を交えながら、私が注目したいポイントを記していきます。
注目ポイント
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相手ビルドの潰しどころ
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ハーフレーン*およびサイドの大外を攻める選手へのケア
*サッカーのピッチを5等分した際の、サイドと中央の間の(左から2番目、右から2番目)スペース。図のHalbraumと書かれた部分。
対戦相手基本情報
- コーナーキック守備は3枚のストーンを置き、あとはマンマーク
- セットプレイではボールを手前でカットする傾向が強い。そのため、中央にエアポケットが出来やすい。
- リーグ戦で喫した2失点はいずれもセットプレイ絡み(Football Labより)
- ポジションは流動的であり、とりわけ中村憲剛はトップ下の位置に留まらずフリーマンになりがち。
- 自陣ビルドは「CB+1」で3バックの状態でボールを回す。
- 「+1」の部分は、守備的MFのエドゥアルド・ネットだったり、サイドバックの車屋だったりと流動的。
- たまにGKのチョン・ソンリョンに戻してロングキックを狙わせる。
- 攻撃の軸はサイドとハーフレーンでの三角形。
- 流れの中での得点3点中の2点はクロスから(Football Labより)
- 守備時は4-4-2の形をとり、中村憲剛がFWの位置に入る。
- 徐々にサイドへ押し出しながら、高い位置で奪うことを目指す。
注目ポイント1:相手ビルドの潰しどころ
いない大島僚太の存在感
広島戦を見ていて初めに目が行ったのは、エドゥアルド・ネット(以下、ネット)を経由するボールの多さでした。
ロングボールをあまり用いない川崎守備陣にとって、真っ先に浮かぶパスの選択肢は中盤の底にいる守備的MFへの縦方向へのパスです。その受け手としてネットが浮かぶのは当然なのですが、本来であれば相棒の大島僚太と代わりばんこでボールをもらいに行くところを、相棒の不在故にほぼ一人でボールを受けにいっていました。
代役の森谷賢太郎(彼もわが軍と因縁浅からぬ選手ですが)は、その名の通り賢い選手なので、ネットのフォローに入りますが、大島僚太やネットのように、「半身で受けてテンポよく前へ繋ぐ」、「囲みに来た相手DFを剥がす」、「時にはDFにリターンして攻撃のリズムを落ち着ける」といったことはあまりしていなかったように見受けられました。
相棒もいない、代役は別の役割をこなすタイプの選手。そのためにネットがボールを受ける回数がかなり多く映ったのだと思います。
エドゥアルド・ネットにつきまとう影
ネットにボールが集まることはあらかじめわかっていた、とばかりに、パトリックと工藤壮人のツートップはネットへのプレッシャーを強めます。
時にはファウルになってしまい、パトリックはイエローカードをもらうなどもありましたが、攻撃の起点であるネットへのケアは、その代償を払ってでもやりきる仕事だったと思います。
この時注目したいのが、パトリック、工藤コンビは単にネット目掛けて走っただけ、というわけではないという点です。彼らは必ずネットの視界(特に仕掛けの起点であるサイドおよび中村憲剛へのコース)を奪うような場所を心掛けながらプレスをかけていました。時には背後にスッと忍び寄って、後ろから脚を伸ばしてコースを切るようなこともしました。
その結果、ネットは徐々に工藤やパトリックのプレッシャーを嫌ってCBの間まで下がったり、プレッシャーを気にし続けながらのプレーを強いられるようになりました。この部分は広島が上手かった部分であり、マリノスも取り入れるべき点かと思います。
見かねて降りてくる中村憲剛
ネットがプレッシャーを気にして徐々にプレーの質を落としていくと、DFラインから前へのボール供給が滞り、川崎らしい小気味いいテンポでのボール回しができなくなっていきます。そこで見かねたトップ下の中村憲剛が、DFラインの近く(時にはサイドバックの位置)まで降りてボールを受けるようになります。
さすがはリーグトップクラスの司令塔である中村憲剛。彼がビルドアップに加わると、守備陣から前へのボール回しはたしかにスムーズになりました。しかし、ボールが相手のゴールに近づくと、前の選手の枚数が、FW、両サイドハーフの3枚になっていることに気付きます。対する広島は4バックに守備的MFを加えた5~6枚。明らかな数的不利です。中村憲剛が下がることなくトップ下の位置にいれば、まだ数的不利であるとはいえ、ボールに合わせる選手が不足するという事態は回避できたかもしれません。
このことから、中村憲剛がフリーマンであるということが、メリットとデメリットの双方を孕んでいること、さらに守備陣からのビルドアップを絶ち、中村憲剛を「下げさせる」ことがいかに重要かがわかります。
結論
川崎の攻めを潰すには、中村憲剛を下げるという意味でも、守備的MFのエドゥアルド・ネット、大島僚太へのケアを欠かさないこと。彼らの視界に必ず顔を出し、楽にプレーさせないこと。
注目ポイント2:ハーフレーンおよびサイドの大外を攻める選手へのケア
崩しの主役は左の阿部+車屋、右の家長+エウシーニョ
川崎の攻撃は、小林悠や大久保義人といったFW陣、さらには中村憲剛、大島僚太、エドゥアルド・ネットのセンターハーフたちばかりがフィーチャーされがちです。
しかし、我々アンジェ・マリノス同様、あくまで崩しの主役はサイドです。
右の家長、エウシーニョコンビはリーグでも屈指のテクニックを誇ります。
個人で見ても対応の難しい2人ですが、昨シーズン試合を重ねていくうちにこなれてきて、お互いの意図を理解しあったポジションをとっているように思えます。たとえば、家長がハーフレーンに入ってネットや森谷からボール引き出したら、エウシーニョが大外のレーンを駆け上がる、というシーンは広島戦だけでなく川崎の試合でよく見る光景だと思います。
ウィングとして振舞ってもクロスやシュート、ドリブルで貢献できるエウシーニョと、ボールキープや意表を突いたパスを持ち味とする家長という突出した選手同士のコンビだからこその光景と言えますし、警戒すべきポイントです。
左の阿部、車屋コンビは右のコンビと比べると派手さは無いかもしれませんが、貢献度では右に勝るとも劣らないユニットです。
右のエウシーニョや家長からのクロスに合わせるように、サイドから中央に走りこむ阿部、その背後をカバーするようにハーフレーンに入る車屋の補完性は高く、あうんの呼吸でプレーができているように思えます。ゼロ封した広島守備陣も斜めに入ってきた阿部にヘディングで合わせられ、あわや。。。というシーンを作られていました。
さらに車屋は後半になっても運動量を落とさず、低くて速いクロスを供給できます。バリエーションの豊かさでいくと、もしかしたら右のコンビよりも厄介なユニットかもしれません。
大外のレーンのケアはやる?やらない?
川崎を褒めたたえすぎたので、いい加減我がマリノスに話を戻します・・・
前節清水戦の後半、結構清水に押し込まれるシーンがあったかと思います。そのシーンのほとんどが、清水の左サイドバック、松原后に攻め入られたことによるものでした。
清水戦では相手のエースであるクリスランを、右サイドバックのマツケンとその横のボンバーでケアしていたため、マツケンは高い頻度で中央寄りに位置をとっていました。そうして彼が空けたサイドのスペースを、松原后に侵入されたため、前述のように押し込まれたのだと思います。
今回川崎はおそらくこの部分を使いたがると思います。
クリスランがいたハーフレーンには阿部や小林が入りマークを集めやすいこと、車屋がこの位置からのクロスを得意としていることや、チームの得点はクロスを基点に多く生まれていることを考えると、実に妥当な判断でしょう。
では、マリノスとしてはこの大外のレーン、マツケンが内に絞った跡地はどうするのか?
ケースバイケースですが、この部分を埋めずに捨てる、というのも一つの策だと思います。
むしろその手前の段階、ハーフレーンで潰しきる。そのためにマツケンは思い切ってハーフレーンを潰しにいってもいいのでは、というのがその理由です。
大外のレーンに通されたら、クロスを浴びるのはやむなし。ミロシュと飯倉、さらに内に絞った山中の3人で対応するしかありませんが、そこまでのリスクを背負ってでも手前で潰すのには理由があります。
ハーフレーンでボールが奪えれば、可能性が広がる
もう一度先ほどのピッチを5等分した図を出します。
単純に考えて、大外のレーンで奪ったとするなら、前方へのパスコースは2つ。「縦」か「斜め」の2つです。しかし、ハーフレーンで奪った場合、「斜め」が2つに増えるため、パスコースは3つです。奪ったあとのパスコースが多ければ多いほど、相手はどこにパスが出てくるのか絞りづらくなります。よって、守備から攻撃の転換がよりスムーズになります。
さらに、マリノスはエリクの3年間を経て、「ポジションを維持する」という考え方を獲得しています。ハーフレーンで奪ったとき、逆サイドのウィング(右で奪ったなら逆はゆんゆんとかですかね)は反対側の大外のレーンにとどまっているため、そこに大きく展開していくこともできます。
もっと現実的な手としては、中央のレーン(Zentrumと書かれている部分)にいるセンターハーフやトップ下の選手を経由して、攻められたサイドと同じサイドを突破するケース。相手のサイドバックが高い位置をとったなら、その後ろはがら空き、走るためのスペースが確保されている状態です。右で奪ったとするなら、同サイドのウィングは、「データも少なく未知数」「スピードがストロングポイント」のオリバーが有力でしょう。未知数だけどめっちゃ速いヤツがスピードに乗ってやってくる。相手からするとなかなか恐ろしい構図だと思います。
結論
ハーフレーンでのボール奪取が肝となるため、大外のレーンを攻め入られるリスクはあるものの、サイドバックは思い切って内側に絞ることも必要。
おわりに
ハーフレーンを締めることを重視すると、マツケンの仕事はかなり重要だと思います。
オウンゴールや頭のケガなどで目立つことの多い彼ですが、それらは厳しい状況に置かれたとき、必ず彼がそこにいてくれていることの勲章でもあります。
今回も阿部や車屋といった熟練したハーフレーン使いを相手にしますし、オリバーとの連携はまだまだと、マツケンの仕事は今シーズン中最もハードなものになるでしょう。
それでも、ここまでチームのために、自身のキャリアのために、アンジェのオーダーを理解し様々な役割をこなそうと走り回ってきた彼ならば、きっと期待に応えてくれるのではと思っています。
さんざん書いてきたように、決して楽な相手ではありません。相手は現チャンピオンです。
今までエリクやアンジェと築き上げてきたこのサッカーで、現チャンピオンを上回れるか。ダービーがどうこう、個人的遺恨がどうこうという要素もありますが、何よりもマリノスの現在地点を知る試金石として、一挙手一投足に注目したいゲームです。